18
「……蒼って呼ぶって言ったのに」
その不機嫌そうな声音に、「あ、」と思い出した。
そういえば。
(…なんか、すごい恥ずかしいやり取りやってたな…おれ)
付き合いたてのカップルかってくらい変な雰囲気を漂わせていたような気がして、思い出すだけで恥ずかしい。
ううと羞恥心に顔を覆っていると、「なー、まーくん」と蒼くん…蒼の声が後ろから聞こえてくる。
皆が寝てるからだろう。
少し小さめに、低くて囁くような声。
「まーくんが酔った後、俺が代わりにキスしたの覚えてる?」
「…あ」
小さく声をあげる。…忘れてたわけではない…というのは嘘で、正直に言うと忘れていた。
罪悪感に駆られて俯く。
「…ごめん」
それもディープキスで、ただのキスじゃない。
初めてそれを目の前でみてびっくりしたけど、想像してたよりもっとすごかった。
それを多分、蒼はおれが罰ゲームを受けないようにと代わってくれて。
あの時はぼーっとしてたから、よくわかってなかったけど、それをしてくれたおかげで罰ゲームを受けずに済んだんだ。
謝罪をしても、「ごめんなんて言葉なんかいらない」とぴしゃりと跳ねつけられる。
機嫌を損ねたらしい。
あまりにもはっきりとそう言われて「う、」と反応に詰まって声が出せなくなる。
(…確かに、怒る気持ちはわかる)
おれは勝手に酔った挙句の果てに眠ろうとしたのに対して、雰囲気を盛り下げないように身体を張ってくれたんだから。
そこでハッとして思い出す。
そうだ。…多分これも怒ってると思って、後で謝ろうと思ってたんだった。
ぐ、と一瞬唇を噛んで、小さい声で呼びかける。
「蒼」
「…何?」
「その、…おれは、ああいうのやるって知らなかった、んだ」
だからなんだという話なんだけど。
でも、蒼にはおれが皆と一緒になって女子を呼んだわけじゃないと知ってほしかった。
あの時顔は無表情なのに瞳が冷酷以上に怒ってるように冷めてたのは、多分このせいもあるじゃないかと思う。
(…今思い出しても、怖かった)
ぎゅ、と震える手で布団を掴んで必死に思い出さないようにする。
蒼の顔色を窺おうにも、後ろからぎゅっと抱きしめられて、顎が頭に乗っているせいで振り返ることもできない。
「そんなの、知ってるけど」
「え…?」
「だってまーくんが誘ったって思ってたら、俺、ここで寝てないよ」
さらりと放たれた言葉に、「ん?」とクエスチョンマークが浮かぶ。
寝てない…って、全然意味が分からない…んだけど。
「どういう意味?」と問うてみれば、「そのままの意味」とごく普通に返されて、「う、うん…?」と変な感じの返答になってしまう。
そのままその意味について思考を巡らせていれば、「あ、」と蒼が何かを思い出したように声を上げる。
「やっぱり、まーくんにも怒ってるかもしれない」
なぜか少し楽しげな声で、そんなことを言うから。
結局怒ってるんじゃないかと落ち込んで、何かその謝罪の代わりにおれにできることはないかと考えてみる。
…思いつかない。
「ど、どうすれば…」
いいでしょうかと最早罵られる覚悟で、困りながら言葉を吐き出すと。
「許さないっていったら?」なんて揶揄うような声に、ああもうどうしようとしょぼくれて頭を垂れる。
…なんか蒼がこの状況を楽しんでいるような気もして、それでもおれが抱えられる気持ちなんて申し訳ないくらいで反論できる余地もない。
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