26

そう非難するように言って、自分は怒ってるんだと示すように顔を背ける。

もう、蒼なんか知るもんか。

絶対にもう口を利かないと決めて、黙り込む。


…と、


「……ごめん」


ぽつりと零される謝罪と、離れていく手の体温。

静かに首を横に振って、反対方向に身体を向けた。

返事はしない。

数分、…部屋の音が無音になる。
皆が起きてたら、なんて考えると今でも怖い。


「ごめん。……俺、まーくんに嫌われたら生きていけない」


少し震える声でそう呟く蒼に、後ろを振り返りたくなる衝動を抑えた。
その台詞に、おれに嫌われたら生きていけないなんて大げさだなと思う。

唇に触れて、まだ……さっきの感覚が、感触が、残っているのを実感した。

舌にも、痺れるほど甘い感覚が腰を刺激して、まだ…鮮明に思い出せてしまう。


(…やっぱり、蒼はキスがうまい、んだろう)


昨日皆も興奮してたし、女子も立てなくなってたみたいだし。
……慣れてるのかな。

そんなことを考えていると


「だって、…なんか気持ち悪くて」


後ろでふいにぽつりと零された声に、耳を傾ける。

(気持ち悪い?)

心の中で、その言葉を反芻する。
それに応えるように彼は、小さな声で言葉を紡いでいく。


「…罰ゲームでキスした後から、…ずっと気持ち悪くて吐きそうだった」

「……っ、」


その言葉に、反射的にごくりと唾を飲みこんだ。


「あんなのとキスしたのが気持ち悪くて、まーくんとして消したかった」

「…え、や、で、でも」


思わずその蒼の言葉に反応してしまう。

”あんなの”と言うけど、可愛い女子だったのに、本当に気持ち悪そうに吐き捨てる蒼に驚く。

でも、そうだよな。普通好きな人相手じゃないのに、キスするなんて……嫌だよなと、納得する。

戸惑いがちに声を出しながら、「…でも、おれとキスしたって」余計に気持ち悪くなるだけじゃないかと思うんだけど、と言いにくくて口ごもりながら呟く。


「知らない女よりは、まーくんの方がいいと思ったから」

「……」


ぼそりと呟く元気のない声に、その考え方もどうなんだろうと思う。

……でも、


「ごめん、まーくん」

「……」

「……ごめん、なさい」

「…っ」


ああ、もうだめだ。
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