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蒼にそんな風に謝られて、無視することなんてできるわけない。
叱られた後の子どもみたいに謝る声に、ううと一度呻いてあきらめて息を吐く。


「…もう、いいよ」


振り向いて、いつも蒼がやってくれるみたいに、落ち込んだ表情を浮かべる彼の頭を撫でる。

暗がりで見る彼の髪は普段より色を濃くしていた。
黒くてさらさらしてて、憂いげに伏せがちな目をしている蒼の整った顔も含めて凄く綺麗で、…あんなことがあった後なのに目を奪われる。


「おれも、……罰ゲーム代わりにやらせちゃって、ごめん」


そもそもの事の発端の原因はおれだったんだから、おれが悪い。
酔わなかったら、あの場でキスしてたのはおれのはずだったんだから。

……蒼は、それを代わりにやってくれたんだ。


「…許してくれる?」

「……うん。だって、元々はおれがわるいんだし。おれの方が、謝るべきなんだと思う。ごめん」


謝る。
そして、窺うように視線を向けてくる彼に微笑む。

もういいや。
なんか、戦術に見事にはまってる感も否めないけど。

もう、気にしない。

男だって言っても蒼はすごく整った顔をしてるし、こんなに性格もよくて顔も綺麗な男とキスできるなんて滅多にあることじゃないと思う。

人生経験だと思って、忘れることにしよう。


「まーくん」


呼びかけられた。「ん?」と首を傾げて問う。


「俺、ひとりじゃ寝られないからぎゅってして寝ていい?」


なんて、本当に子どもみたいなことを言う蒼に、「う、」と一瞬ひるんで。

気持ち悪くて吐きそうだと思うほどのことをさせただけあって、それも弱みになって、「…朝、皆が起きるより早く起きて離れてくれるなら」と言う約束で、前から抱き締められて寝ることになった。

(…なんか、友達との距離感が、男同士を受け入れるクラスに多少は影響されているのかな)

……頷いて、しまった。

そして、朝、結局蒼はおれより早く起きてなくて皆に見つかったけど、寝ぼけていたという蒼の話で笑い話になって終わった。

…その1週間後、今までの行方不明者リストに何人かの女子生徒が追加されという話が噂になっていたらしいけど、それはおれの耳に届くことはなかった。

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行方不明者女子×人、男子×人

いずれも捜索願いの訴えなし。
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