3

そんなに体調が悪いのかと問うと彼は力なく首を振る。

その動作さえ、ふらついていて、見ていて危なっかしい。


「違う」

「…蒼?」


体調が悪いわけではないと彼は言う。

別に平気だという。

……なのに、だったらなんでそんなに、


(蒼は、震えているんだろう…)


肩を掴む手から、震えが伝わってくる。

それは、何かを酷く怖がっているようで。
何かに怯えているようで。

ぎゅっと握りこんだ拳を握った。


「あお…」

「もう、ここには来るな」


声をかけようとすれば、その強い拒絶の言葉に、声に、表情に、思わず息を呑む。

自分は蒼にとって、とても害のある何かをしてしまった。

そんな気がして、罪悪感に苛まれる。

でも、何故ここに来ただけでそんなに拒絶されるのかわからなくて。


「あ、う、…ご、ご、めん」


その勢いに押されるように謝れば、彼は一瞬しまったという顔をして、表情を緩めて「来てくれてありがとう。でも、ごめん」と謝っておれの髪を撫でた。

指が食い込んでいた肩の痛みが、疼く。


「俺のことより、まーくんの方が心配だから。寄り道しないで帰るんだよ」


なんて、子供を扱うみたいに言って笑った蒼の顔が強張っていて。
無理して冗談を言っているようで、それを自分がさせていることに気づいて苦しくなった。


「…わかった。…ごめん。ちゃんと帰る、から。また明日」


「…―――――うん。また、明日」



そうしておれは別れを告げて、尾をひかれるようにして帰った。


………結局、果物も宿題も渡せなかった。
それからも蒼の尋常じゃない様子が気になって眠れなかった。


次の日、学校に来た蒼は「昨日はごめん」と謝ってくれて。
おれもいきなり押しかけてごめんと謝った。


………でも、なんであんなに「帰って」と言ったのか。

その理由を何度聞いても、彼は笑って誤魔化すばかりで。


(表面上は、いつも通り過ごしてるように見えるけど)


……でも、なんか


何かが


(いつもと、違う)


答えのない不安に、胸が騒めいた。

_________

自分は何か大事なものを見落としているような、そんな気がした。
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