2

その笑顔を蒼が浮かべるときは、あんまりおれにとってよろしくないことを考えているという意味で。


「な、何…?」


反射的に少し身体を後ろに後退させる。
笑顔が引きつった。


「食べさせて」


と、そんなことを言いながら「あーん」と口を開いてくるので「な、ななななな、」と怯んで、またそれかとツッコミたくなる。
結構恥ずかしいのに、蒼は恥ずかしくないのかな。
教室で食べているので、周りの熱い視線が怖い。

「早く」と口を開いてくる蒼に、「してくれないと答えない」なんて訳がわからないことを言うから、こどもか、と心の中で思って。
でも気になって早く終わらせてしまおうと「…」無言のままその口にウインナーをつっこんだ。

「ひゅーひゅー」と茶化してくる周囲に、頬が熱くなってくる。ああ、もう、慣れない。

「まーくんはいいお嫁さんになれる」とよくわからないことを言って、もぐもぐとウインナーを食べて微笑む蒼に「嬉しくない」と即答した。

なんでお嫁さんなんだ。婿じゃないのか。

怒って顔を背けつつ、ちらりと蒼に視線を向ける。

…相変わらず蒼は持ってきているお弁当を食べないから、いつか倒れるんじゃないかと心配で、こうして何回か分けたりはしてるんだけど。

蒼はどうせ自分の弁当は食べないだろうと、おれが多めに作って持って来れば。
最初は遠慮してたけど、今は食べるようになってくれた。


…だが、しかし。

前は同じくらいの背だったのに、何故か蒼の身長が伸びてきていることにちょっとだけ嫉妬する。
今までそんなに食べてなかったっぽいのに。多分おれのほうが食べてきたはずなのに。この違いはなんだ。

……おれも身長高くなるかな。

別に低いわけではないんだけど、どうせならもっと伸びたい。

蒼に視線を向けたまま、考える。
随分最初に比べて仲良くなった…と思う。


「……」


転入初日の蒼のイメージは儚い美少年って感じで、でも冷たい瞳をしていたから、どこか近寄りがたくて。

まだその雰囲気は抜けてないけど、身長も少し伸びて凛としたような雰囲気も混じってきてなんだか優しくなった蒼に、一層女子は夢中になっていた。

…と、思考を巡らしたところで、蒼は何事もなかったようにまたおれの分けた弁当の中身を食べ始めたので、じーっと答えを要求するように見つめていると、何故か照れたような顔でよしよしと頭を撫でられる。


「まーくん、あーんしてほしいの?」

「違う」


思わず大きな声が出てしまう。
まさか、わかっててわざとはぐらかしてるんじゃないだろうなと疑ったけど、ふいにそんなに言いたくないことなのかと思い直して、なんか無理に聞こうとしているような感じがして反省した。

やっぱり言わなくていいと言おうとしたとき。

頭を撫でる手が止まる。


「いい高校なんて行こうと思ってないけど。100点じゃなかったから焦ってただけ」

「100点?」

「…うん。満点取らないと、大変なことになっちゃうから」


冗談じみた口調でそう言って笑う彼に、「親が厳しいの?」と問うてみれば「まぁ、そんな感じ」と頷くので確かにあんな大きな屋敷なら躾も厳しそうだななんて思って「そっか」と頷いた。


「蒼ってさー、いつが初体験だった?」

「ぶっ」


おれと蒼の会話を「へー」と頷きながら聞いていた依人からの唐突な質問に。
食事中にいきなりなんてことを聞くんだと、驚いて口から勢いよくお茶が飛び出た。
結構ずばずば聞くんだから本当依人にはいつも驚かされる。


「ごほっ、ごほっ、依人のばか!!」

気管支に入りそうになって咳き込んでいると、蒼がティッシュを渡してくれたのでごしごしと机と口を拭く。
ああもう、汚れた。
急いで拭いている間に、依人がぶーっと不満げに口を尖らせる。

こっちがその顔をしたいくらいだ。


「えーだって気になるじゃんかー。あの王様ゲームの巧みなキスとかさー」

「う…」


確かに。蒼のキスはすごかった。
まるでドラマみたいで、なんかとりあえず、すごかったことを覚えている。

…それと同時に無理やり記憶から消去したはずの自分と蒼の…その、き、キスを思い出して頬が熱くなってくる。
蒼がそんなおれの反応を見て、ふ、と微笑む。
prev next


[back]栞を挟む