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そして、

「……」


黙って無言になってしまった蒼に、「い、いや…っ、依人のいうことは気にしなくていいよ!!」と慌てて、依人に「そんな質問するんじゃない」と怒っていると。


「まーくんは、どう思う?」

「ん?」

「俺が、もう初体験終わってると思う?」


そう尋ねられ、じっと見つめる視線に、「んー」と考えてみてもやっぱりもう終わってるんじゃないかと思う。

そうじゃないと、あんなキスできない…のではないだろうか。

でも、中学3年で終わってるなんて答えるのもどうかと思うし、それを言ってしまってもいいのかとぐるぐる思考して、結局すごく中途半端な返答になった。


「…わからないけど…、なんかたとえ初体験がまだだとしても、すごく慣れてそうだな、とは…思う」

「………」


蒼の表情がそのおれの答えによって強張る。
その変化を見て、ああやっぱり傷つけるようなことを言ってしまっただろうか言わなければよかったと後悔して慌てて「ごめん…っ」と謝れば。

彼は一転して、口角を上げてどこか楽しそうに微笑んだ。


「……そうだな。まーくんが何かしてくれるんなら答えてあげてもいいけど」

「えっ」


予想もしない発言に、思わず素っ頓狂な声が口から出る。
なんでそうなるんだ。


「お、じゃあオッケーってことだな。言ってみー?」

「いやいやちょっと…!?」


反射的に声を上げたおれを無視して、依人がにやりと笑って蒼に「どうぞ言ってください」と促すので冗談じゃないと首を振った。

そこまでしなくてもいいじゃないか。というか勝手におれをまきこむな。


「…(だって、)」


じーっと蒼を疑いの目で見つめる。

なんか、すごいこと要求してきそうだし…。

修学旅行の時の出来事を忘れたわけではない。


「変なこと、期待してるんだ。まーくんは」


口角を上げて小さくそう呟く彼に「ち、ちが…っ」と否定の声を上げれば、依人まで一緒になって「ほう…。真冬君は蒼からのプレイをご所望ですか」と茶化してくるので「違う!違うから!」とぶんぶん首を振った。


「じゃあ、言う代わりに何かしてくれる?」

「……」


蒼の問いに、無言の抵抗を示す。

…頷いたら何を要求されるか分かったものじゃない。


「あー、真冬期待して、」「わかったわかったからもういいから!」


依人の揶揄いを含んだ言葉を遮るように、反射的にそう言ってしまう。
嵌められた。

してやったりという蒼の得意げな表情に、ぐ、と唾を飲みこんでああもうどうとでもなれと心の中で吐き捨てて「それで、いつなの?」と問う依人の声に耳を澄ませる。

おれが何かするんなら、ちゃんと聞いておかないと腹立たしいので、真剣な表情で見つめた。

その口が開くとともに、緊張でごくりと唾を飲みこむ。
蒼のことだから早いんだろうな、なんて考えながらじっと待た。


……その予想に反して、彼は微笑って首を横に振った。


「…まだ、シたことないよ」

「え?マジ?嘘」


呆気に取られてそんな言葉を零す依人と、予想外の返答に絶句するおれ。

あんなに、キスうまいのに?というのが顔に出てたんだと思う。

蒼が含みのある笑みでこっちを向いた。


「やっぱり最初は好きな人としないと、だめだと思わない?」


…目が合って、何故かその視線がその問いに対する答えを求めているだけではなく。

何か、違うことも訴えているようで。
思わず、修学旅行の夜の思い出がよみがえって、パッと目を逸らしてしまった。

見れない。顔を上げられない。


「…そう…思わない?まーくん」


少し低くなった声で問いかけられて、びくりと身体が震える。

考えすぎだ。

考えすぎだ。

考えすぎだ。

勇気を振り絞って、震える手をもう片方の手でおさえる。


「…う、うん。そう、思う」


好きな人とできるなら、それに越したことない。
きっと、初体験が好きな人同士なら、幸せなんだろうな。

ちゃんと心の中でも同意して、頷いているのに。

――――――

何故だろう。

多分、頷いたおれの笑顔は強張っていた。
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