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……そんな日が何か月も続いたある日の昼放課。

俊介に遂に言われてしまった。

それも結構きつめに。


「もう一之瀬と一緒に昼飯食べるのやめろ」

「…え、」


お弁当を持って蒼のところに行こうと立ったままの状態で、ピタリと固まった。
腕を俊介に掴まれて、その真剣な表情に冷や汗を流す。

……でも、昼ご飯を蒼と一緒に食べるのが日課で、かつ俺は人見知りだからあまりクラスの人と食べたくない。
そもそも他人と食べても緊張しすぎて喉を通らない。

そうやって言ってくる俊介は人気者だから何人かの男子と一緒に食事を取っている。
…というような感じで、俺はいつも昼飯時になると蒼と一緒に屋上でご飯を食べていたのだ。

確かに、いつもそれに対して俊介は快い表情をしていなかった、んだけど。

だから遂に言われたかと思った。

ギクリとして身を引く。


「え、…な、なんで?」

「真冬が一之瀬にべったりだから友達出来ないんだって。一之瀬だって、もしかしたら一緒のクラスのやつと食べたいかもしれないだろ」

「…う、」


そう、じゃないとは言えない。
言い返せなくて怯む。

教室に行くと、中学の時に比べて随分と優しい対応をするようになった蒼の周りには人が集まっていることが多くて。

迎えに行ったとき、誰かに勉強を教えていたこともあった。

……だから、俺が蒼の邪魔をしている感じはあったのでそれを言われると弱い。

(で、でも、蒼と一緒に食べられないと…もしこっちで食べたらうまく話せないから場を盛り下げることになる、のが怖い)

蒼なら俺と一緒でも全然嫌な顔しないし、むしろ喜んで食べてくれる。
…しかしそんな俺の思考をはねつけるように彼は掴んだ腕をぐいと引いた。


「わ、ちょ、」


引っ張られて少し体勢が崩れる。


「それにどうすんだよ。朝も一緒昼飯も一緒、帰りも一緒。そんなんじゃ、友達出来ねーぞ」

「…う、う」


それは、その通りだ…と思う。

…8月半ばになっても、まだ俊介と蒼とあと1人くらいしか友達がいないのは…多分まずい。
特にグループ活動が非常にやりづらい。

それに、俺がこうして縛り付けているせいで蒼の友達作りを妨げているのは薄々気づいていた。

…もしかして、蒼の機嫌が最近悪かったのはこのせいもあったのかな。
俺がべったりだから少しは離れてほしいと思ったりしたのだろうか。

でも、蒼はすごく俺に対して気を遣うから言い出せないでいる…とか。


「…(…ありえる…)」


そう思うと、
しゅんと精神的にブルーになりそうになるのと同時に、やっぱり俺も何かしないといけないという危機感に駆られてくる。


「でも、あんまりうまく話せないし、」と言えば、俊介は笑って「俺にまかせろ」と言ってくれた。

俊介は盛り上げ上手だから、俊介が大丈夫だというのなら多分大丈夫なんだろう。

(…確かにそうした方が、俺にとっても蒼にとっても……いいかもしれない)

何もできない自分が本当に情けない。


「…わかった。蒼に言ってくる」


こくりと頷いて、俊介にそういえば
彼はにっと笑って「おう」と返事をして腕を離してくれた。
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