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…今は蒼に対して、昼の自分の独占欲みたいな感情を持ってしまったことが後ろめいたことと。
最近蒼はずっと機嫌が悪かったのに、昨日(多分そこまで怒ってないと思うけど)メールしただけで約束を破って俊介と一緒に帰ったことを怒ってたらどうしようという悩みの二つがあるせいで。

なんとなく会いづらい……。

それに、もしかしたら怒ってるかもという恐怖のせいで、ずっと携帯を開いてないから余計に怖い。

蒼は普段優しい分、一度怒ると本当に怖いから。

ぽんぽんと頭の上でバウンドさせられた手に、顔を上げる。


「またうじうじ悩んでるんだろ」

「…うん」


俊介の言葉に頷く。
ふいに少しやわらかくなったその声に、やっぱり弟がいるからこんなにお兄さんっぽいのかなと少し思った。

昨日も五郎くんが食べこぼしたときとか、笑いながら拭いてあげていた。
面倒見がいいんだと思う。


「俺でよかったらいつでも聞くからさ。電話かけて来いよ」

「……うん。…ごめん」


申し訳なくて、俯く。
何から何まで俊介にも迷惑かけている。

「すぐにごめんっていうな」とコツンと頭を叩かれたので、「あ、ありがとう」とお礼を言えば、無邪気な顔で笑うので俺もつい笑顔が零れる。


「これ以上このままここにいると、一之瀬だってせっかく来てくれたのに怒らせちゃうぞ?」


その声にハッとして、鞄を持って立ち上がる。
怖いけど、このくらいで怯えてるようじゃだめだよな。


「ごめん、ありがとう!また、昨日のお礼するから」


蒼の方に走りながらぶんぶんと手を振れば、彼は笑って手を振り返してくれた。
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