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***


「まーくん、どうかした?」

「……っ、」


いきなり耳に届いてきた声に、身体がびくりと震えた。
ハッとして隣を見れば、蒼の心配そうな瞳がこっちに向けられている。

そうだ。今は二人で登校中だった。


「本当に、昨日はびっくりしたよ。まーくん突然寝ちゃうから」

「ごめん!!それについてはマジでごめん!!」


手を合わせて、ぎゅっと目を瞑って謝罪する。

昨日、知らない間に眠ってしまったらしい俺を蒼が起こしてくれた。
いつ寝たのかも思い出せない。

……勉強中に教えてくれてる人を放置で寝るとか、失礼極まりない。申し訳なかった。

ごめんごめんと何回も謝れば、蒼は「いいよ。まーくんのためなら、どれだけでも時間使えるから」と凄く優しいことを言ってくれて、快く許してくれた。
俺が起きた時にはもう夜中の1時過ぎていて、なんでこんなに寝てたんだろうと焦った。

でも蒼はそんな俺を安心させるように微笑んで、頭を撫でててくれて。
結局昨日は泊まってもらうことになったのだった。

また一緒の布団で寝てくれたし、昨日は特にぐっすり眠れたような気がする。


「…優しいなぁ…」


ぽつりとそう小さく呟くと、「ん?何か言った?」と尋ねてくる蒼に「ううん」と笑って首を横に振る。
しょぼんと落ち込んで、俯きながら歩いた。


「なんか、昨日からぼーっとしてることが多くて、」


神経を蝕むように、ずきずきと少し痛む頭に手で触れながらふ、と息を吐く。

気になることはそれだけじゃない。

風呂に入ったときに乳首にシャワーが当たった瞬間何故か痛みが走って、見てみると血が出ていてびっくりしたけどもう乾いていた。

多分、どっかに擦って怪我でもしたんだろうな。

それに、何故か凄い性器もジンジンしてて、下着が触れただけで今も擦れる度にびくってしちゃうし、変な感じがする。

思い当たることはないはずなんだけど、そのせいか昨日変な夢を見た。

断片的なところだけはなんとなく、…思い出せる。

めちゃくちゃ恥ずかしい…発情期みたいになっていた夢だった。
蒼がいるのに…その、自慰行為したりとか、何回もイッちゃったりだとか。

……俺、別に性欲強くない方だし、友達の前であんなことするわけないのに。


「……っ」


じわじわと頬が熱くなってくる。

本当に、なんて夢だ。

俺、欲求不満なのかな。

…今その夢のことを思い出すと、恥ずかしくて死にそうだから、もうこれ以上考えるのはやめよう。

でもそんな記憶ももう既に薄れ始めていて、多分普通に生活してればすぐに忘れるはずだ。


「この埋め合わせは絶対にするから。何かしてほしいことない?」


ごめんともう一度謝りながらそう聞いてみると、彼は困ったような表情で笑う。


「…んー、そうだなぁ。じゃあ、俺が教室に行ったときは2秒以内に来て欲しいな」

「に、2秒?!」


ぎょっとして目を見開く。
走っても間に合うかわからない。
いや、全力で走っても2秒以内に蒼のところに行けないような気もする。

教室には人も多いし、もし誰かと話している最中だったり、蒼が来ていることに気づかなかったらそれでもう時間が終わる。


「うん。誰と話してても、打ち切って俺を優先してほしい。」


誰と話してでも。ともう一度それを強く訴えるように繰り返して微笑む蒼が、ふいに「だめ…?」と寂しそうな、捨てられた子犬みたいな表情を浮かべるので。

彼のそういう表情に特に弱い俺は…つい頷いてしまった。


「う、うん。わかった。なんとかする。頑張る」


蒼が「ありがとう」と嬉しそうに笑って、少し歩いたところで「あ、」と声を上げた。
ぴたりと足を止めて立ち止まった蒼に、自然と俺も歩みを止める。
その声が、ふいに低くなる。


「もし、まーくんが約束破ったら」

「…破ったら?」


緊張にごくりと唾を飲みこんで、横を見上げる。
俺と視線が合った瞬間、彼は頬を緩め、酷く嬉しそうな表情で笑った。


「俺の牢獄ごっこにでも、付き合ってもらおうかな」


囚人役は、まーくんで

俺が監視役。

歌うように奏でられるその声に
何故か身体中の体温が消えていくような感覚になった。

――――――――

その言葉は、本気か。冗談か。

俺には判別できない。
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