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ただ、ひたすら俊介の声に耳を傾けて。
……まるで金縛りにあったかのように、身体が硬直していた。
言ってはいけない言葉を
聞いてはいけない言葉を
――――――言葉にされてしまう、予感がした。
ばくばくと鳴る心臓の音がうるさい。
汗が、とまらない。
うまく、呼吸ができない。
「なぁ、真冬」
問いかけるような声に、びくりと肩が跳ね上がった。
無意識に、膝の上に置いた手が、震える。
「……――お前らの関係って、本当にただの友…」
「やめろ」
俊介の言葉を掻き消すように、遮られる。
……ここにいるはずのない人の、聞きなれた声。
「…っ、ぇ、」
その声の方向を見上げて、驚いた。
(……なんで、)
「あお、い?」
なんで、ここにいるんだ。
急いで来たのか、服装が少し乱れ、肩が僅かに上下している。
何故か、焦りを滲ませているように見えた。
今までにないほどその整った顔には余裕がなく、苛立ちを含んだ冷たい視線を俊介に向けている。
ゾクリと背筋が寒くなる。
尋常じゃないその様子に、目を瞬いた。
「ちょ、ちょっと待って…っ、」
立ちあがらされ、蒼は俺の手首をつかんだまま廊下の方に歩き出してしまう。
呼んでも止まってくれなくて転びそうになる。
ど、どうしよういきなりどうなってるんだなんで蒼は俺を連れていこうとしてるんだとぐるぐる考えて、助けを求めるように俊介の方を振り返ろうとすれば
「待てよ」
俊介の低い声とともに
蒼とは掴まれている手とは逆の、左手を掴まれる。
「…え、ちょ…っ」
なんだこれ。
本当に、なんなんだ。この状況。
「真冬」
名前を呼ばれて、俊介の方を向く
……と、
彼が笑った。
そして、
普通なら少しは照れそうな、言葉にするのを躊躇いそうなその言葉を
「なぁ、真冬。俺と付き合わない?」
そう、あっさりと口にした。
(………へ?)
目を見開く。
「…っ」
後ろで息を呑む気配がして
その瞬間、右の手首をつかむ手に骨が軋みそうな程の力が込められた。
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もう、何が起きているのかわからない。
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