俊介の告白 1
俊介のその「俺と付き合わない?」の衝撃発言の後、
しばらく誰も口を開かなかった。
……俺も突然すぎたせいで、呆気に取られてて俊介の顔を見ることしかできない。
視線が合うと、優しく目を細める俊介に、数回瞬きをする。
俊介が、冗談を言ってるのか、本気で言ってるのか。
まるで判別できない。
「……(そもそも、)」
(……”つきあう”って、どういう意味で?)
俊介って、別に俺のことがそういう意味で好きなわけじゃないはずなのに。なんで今、こんなことになってるんだ。
でも、そんなことを考えている間に
「…っ、痛、…っ、」
右の手首を掴む力が強くなって、呻く。
俊介から引き離すように蒼に抱き寄せられた。
俊介から見えなくなるように、抱きしめられる。
「…あお、い?」
「まーくん、帰ろう」
ぽつりとそう呟いた蒼が血の気の引いた顔で、俺の手をにぎった。
俺を見下ろして、「お願いだから」と縋るような口調でそう言うから、一瞬怯んで、「や、でも」と躊躇うと蒼が狼狽えた表情をする。
こんな状況で、このまま帰っても、いいのだろうか。
そう思って、とりあえず俊介に何か返さないといけないと、そっちに顔を向ければ
蒼が、は、と乾いた笑いを零す。
「…まさか、あいつと付き合うの?まーくん、あいつなんかいらないって言って。俺だけでいいって言って」
「……蒼、?」
様子が、おかしい。
………というか、付き合うって簡単に言うけど、俺達皆男同士で、
だからそもそもの前提で、付き合うって発想自体がおかしいと思うんだけど。
どう答えればいいのかと戸惑って答えられない俺に、ぎゅっと手を握る力が強くなった。
蒼の顔が苦痛に歪む。
「答えてくれないなら、いい」
「…わっ」
いきなり、すこし屈んだ蒼に脇の下と膝の裏に手を入れられて、軽々と抱き上げられた。
足が浮いている。
いわゆるお姫様だっこをされて、「…っ、」一瞬で気が動転して頬が熱くなった。
(な、な、なんでこんなことに…っ)
状況に振り回されてばっかりで、一向に理解が追いついていかない。
そのまま教室を出ていこうとする蒼に、「ちょ…っ、ちょっと。蒼…っ」と声で制止を訴えかけるも、聞き入れてくれなくて。
一瞬、振り返ったときに俊介と目が合う。
その瞳が、どこか悲しそうな色をしていた。
「蒼…っ、あおい…っ」
無言で歩く蒼に、呼びかける。
でも、それに応える声はない。
…彼はさっきの部屋からだいぶ離れた空き教室に入って、俺を椅子の上におろした。
別に軽いわけじゃないのに良く持ち上げられたな、と今されていたことを考えている場合でもないのに呆然とし過ぎて、そんなことくらいしか頭に浮かばなかった。
「……まーくん…」
ぎゅうっと抱きしめられて、その身体の震えが伝わってきて驚く。
…なんで、そんなに震えてるんだろう。
俺が、俊介に…よくわからないけど、付き合ってって言われたから?
だから、蒼はこんなに震えているのかな。
でも、どうして蒼は”友達”なのに、こんなに必死になっているんだろう。
(自分だったら、蒼が付き合ってって誰かに言われたとして…どう思うんだろう)
「…(わからない)」
そう考えて、瞳を伏せる。
まだ、自分のことがわからない。
自分の気持ちさえわからないのに、蒼の気持ちなんて推測できるはずもなかった。
外の、グラウンドの方からは学生の声が聞こえてくる。
野球部だろう。
何かを応援するような声が、聞こえる。
……この空き教室には俺と蒼の二人きりで、それ以外の人はいない。
外から注ぐオレンジ色の光が、床を照らしている。
もう、陽が落ちかけていた。
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