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***
「それで、何があったんだ?」
「……」
風呂に入れてもらって、前と同じように俊介のパジャマを貸してもらった。
少し大きめのそれは、腕を伸ばすと手が隠れてしまう。
俊介の部屋で、お茶を出してもらって、一息ついたところでそう聞かれた。
でも、自分でも何が起こったかなんて整理できていなくて、何も言うことが出来ずに俯く。
蒼に何故かいつの間にか嫌われてて。
大っ嫌いって言われて。
犯されて。
「…(…なんて、)」
俊介に言っていいものだろうか。
それに、どういえばいいか、わからない。
まだ、ぼーっとしてて、夢を見ているような気分だ。
どうしようと考えて俯くと、彼は「…もしかして、一之瀬?」と顔を歪めた。
それに応えないでいれば、「あー」と察したような表情をして、「もしかして、俺のせい?」と顔を暗くして聞いてくるから「…違う、と思う」と首を振った。
そもそも俺が蒼に嫌われるようなことをしたから悪いんだ。
俺が、最初から蒼に嫌われていたから。
嫌われてることにすら気づかなくて、蒼の「好きだよ」って嘘の言葉を今まで信じてしまったから。
……でも今日だって、途中まで俺に怒ってる感じはしなかったのに。
だからこそ、今まで俺を見る目に嫌悪を感じなかったからこそ、俺は蒼の好きって言葉を信じることができていた。
「…(…本当に、なんで、…あんな、)…」
…何か、理由があるはずなんだ。
思い出さないと。
俺が何をしたせいで、蒼が今日変になってしまったのか。
…おもい、ださないと。
「……、…」
「あー、やっぱり、今はもうやめとくか」
気づけば、頬に涙が伝っていて。
そんな俺を見た俊介が顔を歪めた。
肩を抱き寄せて、よしよしと頭を撫でてくれる。
「……っ、」
その身体から伝わってくる温度が優しくて、ぎゅっと目を瞑った。
……もう、今は何も考えたくない。
「今日は、ぱーっと遊ぶか。何したい?」
「俊介」
気を遣ってくれているのか明るくそう言って笑うから、それだけで心が温かくなる。
でも、今は何かをする気にはなれなくて、
その服を少し掴んで、見上げる。
「ん?」と優しげに目を細める俊介に躊躇って、口を開く。
「…今日は、その、俺と……一緒に…寝て、ほしい」
「…っ、」
そう言った瞬間、俺を見下ろす俊介の目が大きく見開かれる。
すぐ近くにあった身体が、ばっと壁の近くまで離れていった。
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