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名前を呼んで、確かめる。

これは、夢じゃないんだと。

この声は、本当に俊介なんだと確認したかった。


『え、おう。俺だけど』

「俊介…っ、うああ…っ、しゅんすけ…っ」


そのあたたかい声に、柔らかい声が耳に届いて、ぼろぼろと声を上げて泣いてしまう。
自分でも、感情が制御できてないのがわかる。
高校生にもなって、こんな泣き方をする自分をみっともないと思う。

でも、そう思っても、涙がとまらない。


『え?!ちょ、どうした?!』

「あお…っ、あおいが…ッ、怖くて…っ、ねちゃって…っほけんしつで…っ」

『え、え?何、なんかあったのか?!』


戸惑っている声。

ひっくひっくと嗚咽を零しながら声を出すと、余計に俊介が慌てているのが電話越しに伝わってくる。
俺にだってわけがわからないのに、俊介にはもっとわからないだろう。

俊介が息を吐いて『とりあえず落ち着け』と優しい声を出してくれるから、余計に涙が出てくる。
でも、ずっと泣いているわけにもいかないので、制服の袖で涙を拭いながら「うん」と頷いた。
濡れた袖が冷たい。


『さっき保健室って言ってたけど、今、もしかして学校の保健室にいるのか?』

「……うん」

『…マジかよ』


頷くと、『どうなってんだ…?…この時間までいられるもんなのか?』なんてはぁと呆れような声が零されて、その声音に無意識に身体が震えた。

俯く。


「ご、ごめん」

『すぐに謝ろうとするなって。先生は?あと、親に電話した?』


気を遣ってくれてるのか、声を和らげてくれた俊介にほっと息を吐く。


「…先生は、いない。……親…は」


でも、そこでなんていえばいいか分からなくて、口ごもっていると『わかった』と頷く声が聞こえる。


『仕方ねーから、迎えに行ってやる。そこで待ってろ』

「え…?」


有無を言わさぬ強い口調に聞き返しても、もう電話は切れた後だった。
ツーっ、ツーっと機械音が聞こえる。

(迎えにって…?)

その言葉の意味がわからなくて、ぼーっとそこらへんを眺めていると。


「真冬…っ、どこだ?!」

「…っ」


ガラリとドアを開いて現れた俊介に、安堵と喜びで頬が緩む。

「わっ」

思いきり抱き付くと、体勢を少し崩した俊介は驚いたような声を上げて。
息を吐いてよしよしと頭を撫でてくれる。

(本当に、迎えに来てくれた…)

俺なんかのために、走ってきてくれた。
嬉しくて、ぎゅうとその身体に回した腕に力を込める。
あったかい。
余程急いできてくれたのか、その鼓動が速く脈を打っていて、俊介の身体が少し汗ばんでいて熱い。


「ていうか、」

「…」


何かを言いづらそうな口調で、呟いた俊介を見る。


「お前、その格好…」

「…なに?」


少し上擦った声を零す俊介を見上げて首を傾げると、彼は俺から何故か顔を歪めて複雑そうな顔をして俺から目を逸らした。

何故か少し顔が赤い。

自分の今の姿を見てみる。

カーディガンはベッドの傍のハンガーにかけられて羽織ってなくて、ネクタイを縛っていない。
そしていつもは第1ボタンまで閉めてるボタンを、今は第2ボタンまで開けてて、上はくしゃくしゃのワイシャツ一枚に下はズボン。
緩いワイシャツのせいで余計にワイシャツの下から肌が見えているから、だらしない姿だとは思う。

でも、そんな顔されるくらい変な格好でもない気がするんだけど。

首を傾げていると、俊介に「俺の家、泊まってく?」と言われて、素直にそうさせてもらうことにした。
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