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抱きしめられたままその胸元を強く手でたたいても、返ってきたのは言い返す言葉じゃなくて、受け入れるような返事ばかりで。
それが余計に腹立たしくて悔しくて、これで蒼に泣かされるのが一体何度目だと思ってるんだと、今度こそ本気で怒りたくなってくる。
「俺のことだって…っすごく冷たい目で見るし、柊とか呼ぶし、…っ、」
「…うん」
「それに無理矢理されたときも、痛かった…ッ、すごく痛かったんだぞ…っばか…ッ」
痛かった。
貫かれた後孔も、心も、あの行為が終わったあとだって、胸が張り裂けそうなくらい、痛かった。
数えられないくらい泣いて。泣いて。
学校に行っても蒼を見るたびに何回も思い出して、足が竦んで歩けなくなったこともあった。
今思い出しても、苦しい。
「……っ、頷くだけで、ほ、ほんとに…っ、わかってる、のか…っ?!」
「…うん。わかってる。…ごめん、俺が悪いから、…まーくんを傷つけて、…泣かせてごめん、」
泣きながら抵抗し、嗚咽を交えて責め立てた言葉に、彼は何も言い返さない。
睨み上げれば、滲む視界の中で眉尻を下げ、痛みを堪えるような表情で心苦しそうに目を伏せる。
(……狡い、そんな顔されたら、赦してしまいそうになる、)
……不意に、あの行為の最中に「全部嘘だった」って言った蒼の言葉を思い出して、唇をぐっとかみしめる。
血の、鉄のような味が口内に広がった。
「…また、これも嘘じゃない、よな…?」
俊介がそう言ってたってことも。
蒼が俺のことを嫌いだって思ってないってことも。
全部、本当に真実なのだろうか。
ああもう、声が震えてしまう。
ぎゅっと蒼の服を握りしめて、見上げた。
「……嘘じゃないよ」
「…ほん、とうに…?」
それでも信じることが難しくて、疑ってしまう。
一度嘘だったと言われれば、もう何も信じられなくなってしまう。
「あんなことされて、簡単に信じてもらえるわけないよな」
「………ごめん、」
「……なんで、まーくんが謝るの。それぐらい、俺はまーくんに酷いことをしたんだから」
その言葉に思い出し、身体が強張ってしまう。
言葉で信じたいし、今目の前にいる蒼は俺が好きだった蒼のままだ。
身体に残る感触以外は、空き教室で行われた情事の証明はできない。
…俺さえ忘れられれば、何事もなかったようにできるのにと思いついた方法は非現実的だった。
「少しでも信用してもらえるようにできることは…」
思案し、「何かしてほしいことがあったから何でも聞くよ」と言われて、すぐには思いつかない。
「まーくんが望む行動があれば一番いいんだけど、…今俺が思いつく方法はこれかな」
「……ぇ、…?」
何気なくポケットから取り出された物に、目を疑った。
なんでそんなもの、持ってるんだ。
それが何かを脳で把握した瞬間、身体が固まる。
「こんなものしかないけど」と鞘から刃を抜きながら小さく呟いた彼の顔は真剣で、嘘を言っているようには見えない。
「望むなら、その証拠に腕を切り落としたっていい」
「…っ、なに言って」
「ナイフでは無理だけど、家に帰れば道具がある。嘘じゃない証明に、今は健を切るってことでまーくんの気持ちが少しでもすっきりするなら、」
息を呑んだ。
「どうかな」と、窺うように提案されて戸惑う俺に綺麗に微笑む蒼に背筋が凍る思いに駆られる。
本気か、嘘かわからなくて慌てる。
「わ、わかった。信じる。信じるから、その刃をしまって…!」
「でも、それだと証明が」
「良い…っ、しなくていいから、」
「本当にまーくんの為なら、切っても良いのに」と失意した様子でナイフをしまうのを見て、ほっと息を吐く。
…本気じゃない、と信じたい。
「…あのさ、蒼。そういうのはあんまり学校に持ってこない方がいい…と思う」
それを持ってきた用途が、ただ偶然持っていたとか、何かの紙を切るのに必要だったとか。
そんな理由であってほしい。
「なんで?」
「……危ないから」
今の行動を見ていると、特に蒼が持つと危ない気がした。
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