3

「…まーくん」

「……っ、」


上半身を起こした蒼に肩を抱き寄せられて、首元に顔が近づく。

慰めるように髪を優しく撫でられて、あんまりにもその手が優しくて、思わず驚いて蒼を見上げた。
いつの間にか泣いていたらしい俺の頬にキスを落とす。


「ごめん。気づけなくて」


気づく…って、何に。
何が起こっているのか理解できないまま、呆然と抱きしめられたままで。

彼がふ、と緩く笑みを浮かべる。
事態を把握できずに、それでも何故かその笑みが怖くて瞬きすらできない。
蒼がこんなに素直に引いてくれるとは思えなかった。

「真冬」と呼ばれて、頬を触られれば身体が反射的に震えた。
ぐいと手首をつかんで、押し倒される。


「ぇ、…っ」


予想外に体勢を崩せば、床で頭を打たないように俺の後頭部にあてた手で庇われた。

なんだか恍惚とした表情をした蒼が、痛いくらいに強く手首を握ってくる。
何をされるのかわからない恐怖に、身体の震えが止まらない。
じゃらりと視界の端で鎖が揺れた。

彼が口の端を歪めて笑う。


「やっぱりお姫様は滅茶苦茶にされるほうが好きなんだよな?」

「な――っ」


何をどう勘違いしたのか。

違う、と言おうとすると、噛みつくように首筋に顔を埋められ、強くキスするようにそこを吸われる。
じわ、とそこから広がる感覚に身体が震えて、抵抗しようにも手首をつかむ力が強すぎてびくともしない。


「う、うあ…」

「嬉しくて泣いちゃうまーくんも可愛いな」

「……っ」


…まるで恋人のように指を絡められる。

繋がれた手を床に押し付けられて、…違う、違うと、首を横に振って蒼に訴えた。
今からされることを想像して、目頭が熱くなる。

違う、違うと、首を横に振って蒼に訴えた。

いまからされることを想像して、目頭が熱くなる。

今まで何度もされてるのに。
それでも、怖くて、嫌で。

……なのに、逃げられない。

涙が肌を伝って床に落ちる。
背中に感じる床の固い感触。
そんな俺を見て、恍惚とした表情をした蒼が濡れた俺の頬に触れた。


「もっと俺のために泣いて」

「ぁ…っ、嫌だ…っ、あお…っ」


(これじゃ、またいつもと同じに…っ)

これからされることなんて嫌でもわかってる。

やめて、もうやめてくれ。

そう言いたくても、恐怖で声が出ない。
身体がまるで石になったかのように動けない。

…キスしようと顔を近づけてくる彼をただ、見ていることしかできない。


「ひとつに繋がって、一緒にもっと幸せになろう?」


死ぬまでずっと俺だけを見てて。

怖いくらい綺麗な顔で蒼はそう呟いて笑った。


――――――

…”幸せ”って何。

蒼と俺の”幸せ”は、何かが違うような気がした。
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