いっそのこと、全部壊れればいいのに 1

***


「寂しかった?一人にしてごめん」


切羽詰った顔をした蒼にぎゅうと抱きしめられた。
走って帰ってきたのか、肩を上下させて呼吸も乱れている。
何の感慨もなく、体温をただ感じる。
離れていたといっても、せいぜい1時間程度だ。

その間、部屋の鍵も閉められ、鎖で縛られた俺ができることなんて何もなくて。
……ただ、蒼がいない部屋で天井を見つめていた。

喜びも悲しみの感情も浮かんでこない。
その代わりに自分をそんな場所に閉じ込めている本人に対して、早く戻ってきてほしいなんて思うはずもなかった。


「…うん」


蒼の機嫌を損ねないように、その背中に手をまわして抱きしめ返す。
そうすると、上機嫌に目を細める。そして微笑を口に浮かべた蒼に今日はいつもよりやけに機嫌が良さそうだと思って首を傾げた。

その視線を受けた蒼が優しく微笑んで俺を抱きしめたまま、手首の鎖に手を伸ばして愛おしそうにその部分を撫でる。


「ごみを片付けてきたんだ」

「…え」


彼が俺の額に軽く口づけを落とす。

いきなり放たれたその言葉に驚いて少し身体を離すと、胴にまわされた腕で引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。
頭の後ろに置かれた手に、優しく髪を撫でられる。

覚えてるかな、と笑いを含んでそう呟く蒼を、訳が分からずに見つめた。


「まーくんにいつも引っ付いてた男いただろ?眼鏡かけて、俺とまーくんの仲を引き裂こうとしてたゴミ」

「――っ」


彼の首元に顔を寄せられたまま、どくどくと鼓動が嫌に早鐘を打つ。
一緒にいた人で、眼鏡で、蒼に逆らってた人間なんて、一人しかいなかった。

すごくいいやつで、一緒にいて楽しくて、友達思いの、


「しゅ、んすけ」

「……ああ、なんだ。覚えてたんだ」


途端に低くなる声に、しまったと青ざめながらも言い訳をする余裕もなかった。

……蒼から身体を離してその服を掴んだ。
顔がこわばるのを感じる。

まさか。まさかなんて考えたくもない。

震える俺を、まるでよしよしと小さい子どもをあやすように髪を撫でてくる。


「またあの汚い男に触れられないように、ちゃんと壊しておいたよ」


もう怖いことなんてない、と安堵の息を漏らして優しく抱きしめてくる蒼に絶句する。
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