足音

***


授業が終わって、今日はそういえば職員室に提出しないといけないものがあったんだと思い出して教室を出た。

階段を下りてしばらく歩いている と、


「……」


何故か後ろから同じ歩調でキュッキュッと上履きの底のゴムが擦れて鳴るような音がついてくることに気がついた。
ここは一階で、かつ皆の教室からは結構離れた場所にあるから近くに人の姿はない。

…誰か他の人がいるのかな。

とりあえずそんなこともあるだろうと、気にしないようにして歩く。


「……っ、」


キュッ。

キュッ。

キュッ。

でも、しばらく歩いていても、足音はずっとついてくる。
ホラーかと思うくらい、そのくらいこの廊下でする音と言えば、俺が歩く音と。
後ろから追うように一定のリズムを刻むその音だけ。


「…(う、…なんか、怖い)」


それでも、振り返る勇気もない。

……試しに足をとめてみる。

すると。
ぴたりと、少し遅れて音が止まった。


「……………」


背中を、冷や汗が流れた気がした。

(…な、なんで止まるんだよ)

若干怖くなりながら再び歩き出して足の速度を速める。
足を速めた瞬間、後ろの足音が速くなる。


「……」

さすがにこれはもう絶対に誰かにつけられてる、と一度立ち止まって大きく息を吸った。

ぐ、と拳を握って振り返る。

すると、


「…え、」


そこにいた人物に目を瞬いた。

それは、いつの日か、蒼と一緒にいた男子生徒で。
彼は俺と目が合うと、にっこりと笑顔を浮かべた。


「柊、真冬くんだよね。初めまして。僕、板本ゆう」


突然の自己紹介に驚いて、目を瞬く。

……いや、でも初めましてっていうか。
不意にこの男子生徒と前回会ったときのことを思い出して、血の気が引く。
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