16

***


教室について、中に入った。
皆、朝から楽しそうに友達と話していて、すごく賑やかだ。
どうせなら蒼も一緒にクラスだったらよかったのに。


「俊介、おはよう」

「…おはよ」


そんなことを思いながら挨拶をした瞬間に、顔をしかめて不機嫌な顔をされる。
何か、嫌なものをみたという目。
その瞳を見て、さっきまで明るかった気持ちがすぐに沈んでいく。


「…俺、何かした?」


こんな反応をされるのは初めてでショックを受けて、しょぼんと落ち込んで下を向くと、呻くような声がした。


「あーあーあーあー…!!」


突然の大きな声に驚いて顔を上げると、俊介が机に突っ伏して腕で顔を隠すようにしている。
その瞳が拗ねたように、こっちを睨み上げていた。


「ちげーよ…!ちげーっつの!」

「何が?」


首を傾げる。
俊介は言いにくそうに下に目線を向けて、ぼそりと呟いた。


「その、」

「…?」

「…ただ、一之瀬と一緒に来たんだなーって思っただけ…」


その不満そうな表情に、「あー」とか「えっと」とか煮え切らない言葉が口から出た。
「まさか、ヤッてきたんじゃ…」ないだろうなというような疑った視線を向けてくるから、ぶんぶんと首が折れそうな勢いで首を横に振る。
一瞬で顔が真っ赤になるのを感じた。

(…こ、こんな朝っぱらから、何言ってるんだよ…!!俊介のばか)

周りの目がこっちに向いてないかを確かめて、だれもこっちに注目してなくてほっと胸を撫で下ろした。
誰も聞いてなくて良かった。


「違うって。ただ、昨日蒼の家に泊まらせてもらっただけだから」


「すごく庭が綺麗でキラキラしてた」とその光景を思い出して笑えば、彼は「ふーん」と興味なさげに呟く。
ちらりと窺うような視線を向けられる。


「まさか、…その、寝る時って、抱き合って寝たのか?」


言いにくそうに口ごもりながら呟かれるその言葉に、一瞬迷ってから頷く。
…友達同士なら、別におかしくないはずだ。
怖かったけど、結局蒼はずっと優しくて何も嫌なことなんてなかったから安心できた。
ああいう、変なことをしてこない蒼の傍はすごく居心地が良くて心がふわってなる。


「くあーー!!」

「え、ちょ、俊介?」


突然大きく、アヒルみたいな声を出した俊介に驚く。
肩をガシッと掴まれて、「わ、」と小さく声が上がる。
じいいっと至近距離で俺を見つめる瞳。


「言っとくけどな。普通、男同士は一緒の布団で寝たりしないんだからな…!!」

「…へ?なんで?」


前にも俊介に驚かれたけど、友達同士で、かつお互いが良いと思ってるなら寝てもいいんじゃないだろうか。
流石に片方が嫌だと思うなら、無理に強要するのはおかしいと思うけど。
第一、抱き合って寝るのはすごくあったかくて安心するから良いと思うのに。


「な、なんでかなんて知らないけど…!一緒に抱き合って寝るのは、恋人同士だけだぞ!」

「そう…?」


眉を寄せた俺に、「そのくらい知ってろよ…」と嘆くような声音で俊介が席に座りなおした。
でも、確かに漫画だと男同士が寝てるって描写みたことない…かも…。
女子同士だと一緒に寝たりすることあるらしいのに、なんで男同士はだめなんだろう。

むーっと顔をしかめて必死に考えてもわからない。
そんなこんなで先生が教室に入ってきたので、自分の席に戻ることにした。


授業中。
窓の外に広がる澄み渡る青空を眺めながら、ぼーっと考えてみる。


「…(なんか、最近考えることが難しすぎてよくわからなくなってきた)」


…俊介に対する返事のことも。
まだしてないけど、多分俺の答えは誰が相手でも多分決まってる。

(…”友達”でいたい)

なんで、皆そこから先に進みたいと思うんだろう。
自分たちのことだけではなく、それが異性相手でも、思う。
男と女だって、ずっと友達でいればいいのに。
付き合ったりするから、関係がぐちゃぐちゃになって、どろどろになって、お互いを嫌いになって、そうしたらいつか離れないといけなくなるのに。

友達なら余計なことを考えなくていいから、お互いを変に意識することなく…ずっと一緒にいられるんだ。

頬杖をついてノートに書かれている文字をじっと見ながらシャーペンでトントンと軽く叩いていると、不意に視界の端で何かが下に向かって落ちていく。

隣の女子が消しゴムを落としたようで、慌てていた。
その慌てぶりのせいで、腕が当たったボールペンまで床に落ちてころころと転がってきた。

なんか面白くて、笑いながらそれを二つとも拾って渡すとその女子が「あ、ありがとう…、……ございます…っ」と真っ赤になって、その様子が小動物みたいで可愛い。

いつも真面目に真剣な表情で授業をとっているから、初めてこんなに慌ててるの見た気がする。
その女子がまた黒板に目を移して真剣に文字をうつすのを見て、俺も頑張らないとと気を引き締めて前を向いた。
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