10

血が、飛沫が、飛ぶ。
服が、赤く染まっていく。

その中で唯一。

……――蒼だけが、月明りの下で綺麗に微笑んでいた。

声を上げて自分に向かってくる男も容赦なく切りつけ、地面に倒れる身体。

彼はそれを視界に映して、薄く整った唇の端を持ち上げた。
血の付いた頬を気にもせずに酷く残酷な美しい笑みを零す。

否応なしに、目を奪われる。

してはいけないことをしているのに、
見てはいけないものを見てしまっているはずなのに

……彼の表情、身体の動かし方を美しいと感じてしまった。


「…あ、おい…」


見惚れると同時に、身体が震えた。

呆然とし、硬直する。
まるで映画を見ている時のように、現実感がない。

あの、優しい蒼が、人を刺して

楽しそうに笑っている。

(…なんで…、)

そんなに笑っていられるんだ。

声に反応したのか、ほとんどの男たちを片付けた蒼が俺の方を見る。
ナイフを持っていない方の手が伸ばされ、頬に触れた。
息を呑むほど優しく撫でられる。


「…なんで、世界は俺とまーくんだけじゃないのかな。二人きりなら、ずっと幸せでいられるのに」


目を伏せて呟いた彼に、ドキリとした。

血を浴びてしまった蒼の姿を、震えながら、ただ見上げることしかできない。


「……俺が怖い?」

「…っ、ぁ、おれ、は」


うまく答えられない。
寂しそうに笑った蒼に、ぎゅうと勝手に胸が痛くなる。

身体を離し、残る1人の男の方に向かう姿を、目で追う。


「…っ、」


震える拳を握る。
これ以上、蒼にこんなことをさせたらだめだ。
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