12

何故そんな問いをされるのかと問われた質問の意味が、理解出来ない。


「……なんで、って」


俺の腕を摑んでいる手を通して、震えが伝わってくる。
板本君だって、まさかこの状況で蒼に刃を向けられるだなんて思いもしなかっただろう。

……俺だって、わけがわからない。

殴られた跡を見れば、板本君は悪くないってわかるはずなのに。
戸惑いながら、蒼を見上げた。
俺の答えなんて決まってる。

そんなの、


「”トモダチ”だから?」


答えをよんだかのように、先にそう呟いた彼は微笑んだ。
俺はそれに対して、静かに頷く。


「…うん。友達、だし、板本君は何も悪いことしてないんだ…っ、だから、」


そうだ。友達だから。
蒼も、板本君も、凄く大切な友達だから。

蒼にもナイフを持ってほしくないし、板本君にその刃を向けてほしくない。

そう答えれば、彼はその綺麗な顔に、優しいような皮肉のような独特の微笑を浮かべた。


「友達のためなら、本当になんでもしちゃうんだもんな。まーくんは」

「……?」


なんでそんな表情をするのかと不思議に思う。
彼は一度言葉を切って、一瞬目を伏せた。


「…――ずっと、見てたよ。最初から全部」

「ぜん、ぶって…」


一瞬キョトンとして、でも聞き返す前にはその言葉の意味を理解した。
全身から、血の気が引く。
血が冷えわたって鼓動が速くなるような、そんな感覚。

(…さいしょから、ぜんぶ…)

もう一度、心の中で、その言葉を呟く。

全部って何を。

さっきまで自分がしていたことを。……されて、いたことを…?
身体が、震える。

見られていた…?
見られて、いた…というのか、あれを、全部。


(…蒼、に…)


真っ青になっているだろう俺を見て。
彼は、屈託のない表情で得意そうに、満足そうに微笑んで、躊躇うことなく頷いた。


「うん。ずっと見てた。まーくんがトモダチのために頑張る、必死で一生懸命な可愛い姿も、」

「…っ、」

「汚いモノで汚されちゃって、でも頑張って耐えて腰を揺らされてるまーくんの姿も」

「…そ、んな…」


蒼に、あんな姿を見られていた、なんて。
目の前で恥じらいもなくそう言い放たれた言葉に、愕然とする。
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