13
どうやって、見ていたんだろう。
ここの場所は暗いせいで本当に近くからじゃないと、何しているのかなんて見えないはずなのに。
そんな思考が一瞬脳裏を掠めたけど、でも、すぐに違うことで頭の中がいっぱいになる。
蒼に見られていた。
その予想もしていなかった事実に、頭を殴られたような衝撃を受けて、呆然とする。
何人もの男達にキスされて、精液をぶっかけられるところも、扱かれたり、足を、開かされた……そのすべてを、
(――見られていた、なんて)
さっきまでは板本君を助けることに必死になっていたせいで、自分が誰か知り合いに見られてるかも、なんてそんなこと考えもしなかった。
絶望で、胸がすっと冷える。
そうだ。と、自分の今の姿を思い出してぺたぺたと自分の顔に触れた。
もう既に渇き始めている白いモノが手にべっとりとつく。
そのまま、視線を下に移動させた。
「う…ぅぁ…っ」
白い。白い。
別に制服が元々白いわけでもないのに、自分の身体が真っ白になっている。
嫌悪感と悲痛な感情で胸がいっぱいになった。
「…まーくん、」
「…っ、見ない、で…っ」
気づけば、震える声ででそう叫んでいた。
どうやってもなかったことになんてできるわけないのに、コートでみっともなく隠す。
見られたくない。見られたくない。見られたくない――――っ。
「…ひ…ぅ…っ、く……うぁあ…っ」
ぎゅっとコートの端を手で掴んだまま、固く閉じた唇から、嗚咽が零れる。
……蒼に、知らない男達にぶっかけられた精液まみれの姿なんて、見られたくなかった。
たとえ、友達を助けるために仕方なかったとはいっても、かけられたことに変わりはない。
そんな白濁液にまみれた俺の姿を見て、蒼はどう思っていたのだろうか。
口から放たれるその言葉から、良く思っていないことだけはわかる。
……友達を助けるためとはいえ、それでもそんなことを受け入れるなんて…と、…内心軽蔑されているのかもしれない。
今更、収まっていた感情が一気に湧き上がってきて、眼球が熱くなる。
「ひ…っ、ぅ…っ、」
ぼろぼろと泣いてコートを濡らす俺の頭に、ふわりと優しく手が触れる。
よしよしと撫でてくれる手に酷く安心したけど、反面心配になる。
「お、おれ、汚い、のに、」
「嫌だった?」
「……っ、い、嫌なわけない、けど、」
「まーくんが少しでも安心できるなら、俺はいいよ」
その言葉に、涙が溢れてくる。
精液で汚れてるのに、そんな言葉をかけてくれることにまた泣いてしまった。
その視線が一瞬床に落ちたネックレスに向けられたことに気づき、「ぁ…っ」と震える声が口からもれた。
俺のせいで。俺のせいで。
「…ネックレス…っ、ちぎられて、蒼が…っ、せっかく選んでくれたのに…っ、」
ちゃんと直して、また今度こそ大切にするから。なんとかするから、ごめんなさいごめん、ごめんと泣きながら謝れば彼は優しく首を横に振って抱きしめてくれた。
「いいよ。…俺がネックレスをあげたせいで、余計にまーくんを悲しませた。危ない目に遭わせた。…ごめん」
「そんなことな…っ」
「ううん。俺のせいだよ」
何故か蒼は何も悪くないのに、悪いことなんて一つもないのに自分を責めるような声とともに、よしよしと髪を撫でてくれる。
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