3
次に目を開いたとき。
最初に見えたものは、視界一面に広がる紺色だった。
「おはよう、まーくん」
抱きしめられている。
誰にそうされているかすぐにわからなかったせいで、怖くて、一瞬心臓ドクンと嫌な音をたてた気がした。
でも、身体に伝わる体温から、その紺色のモノが浴衣だと分かった。
声で蒼だと気づいて、恐怖は消える。
…でも、
もう何度目だろう。このやりとり。
起きるたびに繰り返される蒼との挨拶。
それから相変わらずうまく動かない自分の身体。
……まるで自分が人形にでもなったような気分だった。
いつも一緒に寝てくれてた時にしてたように、その身体を抱きしめ返すことも。
嫌だと突き放すこともできない。
あの日から、蒼は何も教えてくれなかった。
少し動けるようになったと思うたびに、何かを考えようとするたびに。
あの甘い匂いが漂ってきて、眠りに誘われてしまう。
「…ごめん」
優しく抱きしめられたまま、ぽつりと申し訳なさそうに頭上で呟かれる声音。
何を謝っているのか、今の俺にはわからない。
「もう少しだけ、そのままでいて。もうちょっとだから。」
何がもうちょっと…?
意味の分からない言葉に、ぼんやりとそんなことを心の中で問いながら、頭を撫でられてなすがままになっていた。
はだけた浴衣の隙間から、彼の透き通るような綺麗な白い肌がのぞく。
「もう少しで、全部終わるから」
何が、終わる…?
問う言葉もないまま、背中に回った腕に強く抱きしめられる。
いっそどうにもできないなら、と今度は自分で瞼をおろした。
――――
彼のその言葉の意味がわかったのは、次の目覚め。
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