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「……」


瞼を開いて、天井を眺める。
流石に何度も繰り返していると、知らない部屋だなんて慌てることもない。
でも、落ち着いてる場合じゃないと、重い身体に鞭をうって上半身を起こした。

(よかった。身体が動く)


「…っ、」


ほっと安堵すると同時に、ズキリと鈍く痛む頭を手で押さえて、苦痛に呻く。
一瞬目の前が真っ白になった。


「…(…)」


部屋には誰もいないようだった。
傍には、お香をたく置物みたいなものがあって、いつ火をつけたのか蝋の部分がほとんど全部溶けている。

今は夜なのだろうか。
薄い障子越しなのに、どの光もこの部屋に入ってこない。
定まらない思考で、それを視界に映しながら、ふいに視線を落として目を瞬いた。


「…(…なんで…)」


首を傾げて、腕をゆっくりと持ち上げてみる。

浴衣…?

少し大きいらしく、手を伸ばしても袖が手を覆うくらいある。
この服、どっかで見たような…。


「……」


どこで見たんだっけ…。
ぼうと考え、思い出した。


(そうだ。これ蒼の――)


そこまで考えた時、不意にガラリと障子が開いた。


「それ俺のだけど、まーくんの方が似合うなって思ったからまーくん用の服にしちゃった」


緩く微笑みながら零される言葉の意味を理解する前に、ガラガラと障子が閉められる。
その動作を見送っていると、彼は布団の傍に座って戸惑う俺の髪を優しく撫でた。
いつもなら嬉しいその行為も、今は何故かそれを少し怖いと感じてしまう。


「欲しいものがあったら、何でも言って」


欲しいものがあったらって…。

なんでそんなことを言われるのかわからない。

怪訝に眉を寄せて、周りをきょろきょろ見回す。
確実に俺の部屋の造りとは違う、古風な部屋。
障子に、たたみ。
困惑して、傍で微笑む蒼を見上げた。


「…あの、…ここ、どこ?」

「俺の家だよ」


何のためらいもなく、平然とそんなことを言うその様子に、さらに戸惑う。
どうして、蒼の家に俺がいるんだろう。
そんな俺を見て、彼は寂しそうに瞳を伏せた。


「まーくん、前に来たことあると思うけど…。覚えてない?」

「あ、いや、それは覚えてる、けど、」


慌てて横に首を振って。
でも、それと俺が今ここにいる意味が繋がらない。
ぎゅっと掛け布団を握る。


「その…なんで、俺は蒼の家で、寝てるのかな…?」

「…?まーくんが、そうしたいって言ったから」

「…へ?」


不思議そうに首を横に傾げる蒼に、俺は絶句した。

俺が、蒼の家で寝たいって言ったってことか…?

全然覚えてない。
考えてみても、そんなことを言った記憶はなかった。


「まーくんが覚えてなくてもいい。俺が、覚えてるから」

「…っ、」


伸ばされた綺麗な手が、俺の頬を包む込む。

冷たい。

悲しそうに瞳に影を落とす蒼に、ごくりと唾を飲みこんだ。
魅惑的で、真意の読めないその瞳が俺をじっと見つめてきて、吸い寄せられるように視線がそこから離せなくなる。


「真冬…」


吐息交じりに、色気を醸し出して呼ばれる自分の名に、どきりと胸が跳ねた。


「…あ、あおい…?」


いつもと何か様子が違う。
反射的に後ずさろうと手を床につく。


「…逃げないで」


低く掠れた声が、すぐ近くで揺れる瞳が、俺の動きを妨げて。
一瞬動きを止めた瞬間、床についた手の上に、手を重ねられた。


「ぁ、…」


いつもと違う蒼の様子が怖くて、びくりと身体を震わせる。
近づいてくる顔に、声にならない声を上げた。
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