蒼のいない朝1

***


………朝、目が覚めたら、そこは知らない部屋だった。


「…ここ、は…」


布団の上に寝かされていることに気がついて、ずきずきと鈍く痛む頭に顔を歪めながら、ゆっくりと身を起こした。

掛け布団がずり落ちる。


「…(ここ、どこだ…?)」


本棚に、洋服、勉強机のような生活感のあふれる部屋に意識を奪われた。
カーテンの隙間から零れる光が、目に痛い。

今までのことが全部夢だったかのような錯覚に陥る。


(夢…?)


本当はここにずっと暮らしていて、元々の記憶から間違っていたとか。

蒼と出会ったことも、蒼と一緒にいたことも、すべて夢だったんじゃないか。

そう思えるほど、目の前の光景があまりに現実味を帯びていて、自分の記憶を信じられなくなった。


「…ぁ、」


不意に視線を下に落として、安堵のような泣きたいような感情が込あげてきて、「はは…っ」と乾いた笑いを上げた。


…夢なんかじゃない。夢じゃ、なかったんだ。


思わず眼球が熱くなってきて、縋るようにぎゅっとその服を握る。


「…蒼、…あおい…」


俺が今着ているものは、蒼がもともと着ていた紺色の浴衣で。

その目に映るものが、夢じゃなかったのだと嫌でも俺に告げてくる。



”――好きだった。本当に、真冬のことが好きだった”



そう、彼は言った。


覚えている。

髪を撫でる手の感触も。

抱きしめられた時の温かい体温を。

俺の大好きな、彼の優しい微笑みを。

最後に見た、彼の泣き笑いに似た表情も。


…全部、ちゃんと覚えてる。

今でもまだ、その時の感触が残っているような気がした。



「…あお、い…」


ぽつりとその名前を呟くと、ぎゅううと胸が得体の知れない何かに締め付けられるように痛くなって苦しくなる。


胸のあたりをおさえて、その苦しみにこらえて、ぶんぶんと首を横に振った。

こんなことしてる場合じゃない。

ハッとして、身体を起こす。


「わっ、」


ぐらりと身体が傾いて、酷い頭痛がした。
やっぱり起き抜けに急に立ち上がったからか、眩暈がして、でも、それをこらえて玄関の方に走る。
裸足なのも気にせずに、地面に降りてドアノブに手をかけた。


最早本能的に”彼”の姿を探していた。

会いたい。会いたい。会いたい。
傍にいて欲しい。
俺を捨てないでほしい。
俺を一人にしないでほしい。

……まだ、信じていた。

あんなこと言ったけど、本当は嘘で彼は近くにいるんだろうと。
ずっと傍にいたのに、俺に傍にいて欲しいっていったくせに、こんないきなり別れを告げられるはずなんかないって。

…………そう、信じていた。
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