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「…っ、………――…ッ」
「おい、起きろ」
突然脳天に衝撃が走った直後、乱雑な男の声が聞こえた。
ガンッと鈍い音と激痛で、深い眠りについていた意識が一気に覚醒させられる。
何か硬い物で頭を殴られたんだと気づいた。
(痛い…っ、痛い…ッ)
酷い吐き気がする。
それと同時に、やまない痛み。
視界が回転しているようにぐらぐらと頭が揺れていて、平衡感覚がおかしくなる。
頭部が割れるような痛みを訴えてきて、寒気がする。痛い。苦しい。気持ち悪い。
「…っ、うえ…ッ、」
込み上げるような吐き気とともに、腹部が痙攣して熱い物が食道を駆け上がってきて、考えるよりも先に口から胃の内容物が出てくる。
ぼたぼたと後から後から込みあがってきて、零れて、酸っぱい匂いが鼻にツンと匂う。
「…う、げ…っ、ぇ…っ」
「何勝手に吐いてんだ、ぁ?きたねぇ」
「ぇ…ぅっ」
蔑むように吐き捨てる声に耳を塞ぎたくなる。
目から流れた熱い涙も胃液と一緒に落ちていったような気がした。
冷たい。寒い。
吐く場所を間違えたのか、手にどろどろとしたものがふりかかる。
そこで、気づいた。
「…っ、うぇ…っお…れ、…ど…うして…」
自分の口から出た声も、驚くほど掠れていて、震えている。
(…どうして、)
見えない。何も見えない。
視力がなくなってしまったのかと思うほど、何も見えない。
視界は全部真っ暗闇で、不安で、怖くて、どうして、いやだ、いやだと叫ぶ。
心臓がバクバクと激しく脈を打って、煩いほど全身に鳴り響く。
そして、頭部が起きてからずっと殴られ続けているように、激痛とともにドクドクと熱をもっていた。
涙ではない温かいどろりとした”何か”が、額を通過して顎までさっきから流れ続けてくる。
(…血…?)
その単語が頭に浮かんだ瞬間、ひやりと背筋が寒くなった。
手についた熱い気持ちの悪い物体を拭おうと腕を持ち上げた瞬間、覚えのある感触とともに、ジャリと金属の音がする。
(…、え、これ…って、)
まさか、と血の気が引いて、足にも手を伸ばした。
同じものが、ある。
手首と足首を包む冷たい感触、重み。
…そして、首を包む重い感覚。
地面に触れた足から伝わってくる冷たいコンクリートのような床。
その意味を理解した途端、蒼に初めてこれをされたときの恐怖を鮮明に思い出して、全身を襲う寒気に身体がすくむ。
(いやだ、いやだ…っ、)
暗闇と恐怖で、パニックになる。
「なんで、こんな…ッ、なに…っ」
「うるせーよ」
「…っ!!」
パンと乾いた音がして、視界に火花が散る。
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