泣き止んだ家畜(椿ver)

***


壁に背を預けながら、やっと来た待ち人に笑顔を向ける。


「あら、やっと来たわね」

「その気持ち悪い言葉遣い、やめてもらえませんか」


本当に可愛げのないヤツ。
蒼と全く同じことを言いやがる。

チッと舌打ちをしてみせた。

まぁ、今の俺は化粧もしてないし、服も男物の浴衣を着てるから当然といえば当然か。

確かに他の人間にこんな服装で女言葉なんか遣われたら反吐が出そうだ。

でも、そんなにはっきり言われると結構苛つくな。


「…ついて来い。良いモン見せてやるよ」

「…」


苛立った感情を乗せてそのまま言葉を吐けば、彼方は無表情な顔に多少戸惑いの色を滲ませて、でも歩き出した俺の後を少し離れてちゃんと付いてきた。


………………


「家畜。御主人様が戻ってきてやったぞ」

「……」


俺の視線の先を見て、死人をみたようなそんな表情で彼方は表情を凍らせた。

なんとなく俺が家畜部屋に連れていくとは予想していたらしいが、そこにいるのが誰かまでは考えつかなかったようだ。

それを無視して、俺の足音が聞こえたらしく床にペタペタと手をついて這ってくる家畜…柊 真冬の頭を撫でてやった。


「ごしゅじん、さま…っ、やっときてくれた…」

「おう。寂しかったか?」

「…っ、すごく、さみしかった…です」


俺が来たことが余程嬉しいらしい。

こくこくと頷いて泣きそうに震える声で儚げに微笑む家畜の頬には、また泣いてたのか涙の跡が残っていた。涙のせいで赤く腫れている。

昨日の夜、俺が殴っても蹴っても、何をしても泣き止まない家畜が段々うざくなってきて、蒼に捕まえられた後捨てられていったヤツ等の声をイヤホンで聞かせ続けることにした。

生声を撮ったやつだから、一切加工はしてない。

悲しみ。悲哀。苦しみ。恐怖。哀惜。懇願。愛情。
ここで監禁されたことによって他のヤツらに犯されながらその場にいない蒼の名を呼ぶ声もあった。


延々と直接耳の中に流れてただろう奴らの声。

手足は縛ってあるから、イヤホンを外すことなんてできない。

そんな声を上げるヤツの中には多分コイツの知り合いもいたはずだ。

俺が目の前にいんのに、蒼のことなんかで頭いっぱいになって無視されるとかムカつく。

これ以上他の男のことで泣かれてたまるか。

そんな鬱憤を胸の中でどうにもできずに苛々して、思いついたのが結局こんなことだった。

さすがにこれだけやれば大人しくなるだろ。

そう思って今朝戻って来てみれば、見違えるほど静かになっていた。
prev next


[back][TOP]栞を挟む