いっしょにごはん 1
タタタと軽い足音が戻ってくる。
「今日はちゃんとがんばったからごはんあるんだ…!」
「……」
そんなよくわからないことを言って「やったぁ…!」と喜んでにへらぁと幸せそうな笑顔を浮かべて明らかにコンビニ弁当の冷えて固まったヤツを持ってくる。
…まぁそれでも変なものは多分入ってないだろうから全然安心して食べられるけど。
あの家のせいでコンビニ弁当を見ると色々なことを思いだすから良いイメージがない。
かぱっと蓋を開けた真冬が、おずおずと謝ってくる。
「かってにあの、あったかくするやつつかうとおこられちゃうから……できなくてごめんなさい」
「…別にいい」
あったかくするやつって多分レンジのことを言ってるんだろう。
むしろ食べ物じゃないモノだって色々食べさせられたからこのくらいなんともない。
その瞬間暗かった真冬の顔がぱあっと明るくなる。
「ありがとう!くーくんだいすき!」
「…意味わからないんだけど…」
相変わらず会話と行動に脈絡がない。
ぎゅうっとそのまま抱き付かれた。
この部屋はエアコンも親の許可がないとつけられないらしく、ずっと氷の中にいるような寒さだから真冬の体温で一瞬温かくなる。
流石になんかもう慣れてきて振りほどくのも面倒で抵抗しないでいると、さらに抱きしめてくる力が強くなって苦しい。
…なんだか俺に対して距離感が全くなくなってきた気がする。
そんなことを思っていると、ぱっと俺から離れて割りばしを手に取るとえへへと楽しい玩具で遊んでいる子どものような表情で笑う真冬が顔を上げてこっちを見る。
その笑顔になんだか嫌な予感がしてぐ、と顎を引いた。
目が合うとなんかさっきの名残で変な感じになりそうになって思わず視線を逸らす。
「くーくんどれたべたい?」
質問に首を傾げつつ、なんとなく目に入ってきたものを指さした。
「…その、丸いやつ」
「うん!わかった!」
何がわかったんだろう。
ぶんぶんと勢いよく頷いて、コンビニ弁当とにらめっこしている様子をなんとなく眺めていると
………ガツっと勢いよく団子の脇を掠める箸先。
「……」
「…む、…ぬ、」
「……」
割りばしを使ったことがないらしく(それとも教えてもらってないだけかもしれないけど)、持ち方が酷く危なっかしい。
スプーンを掴むみたいな手で思いっきりぎゅっと二本とも握りしめて、食べ物に突き刺そうとしている。
冷えて固まったせいで上から刺そうとしてもコロコロと箸の先から逃げていく団子をなんとかしてとらえようとしている様子を見守っていると、やっと成功したらしい。
敗者として箸を身体に突き刺された団子が目の前にぐい、と持ってこられた。
「はい!」
「……なに、」
「あーん」
「……」
…なんだそれ。
いや、あーんの意味自体は知ってる。
それがどういうことを促してるのかも知ってる。
いつも世話係たちにそうしてもらうし、なれているといえば慣れてる。
それにこの流れからなんとなくそうなるかもしれない、ぐらいは予想できていた。
……でも、
(…なんか真冬にそうされるの、変な感じがするから嫌なんだけど…)
思ってから不意にそうじゃない、と心の中で訂正する。
なんなんだこれ。
うまく表現できないから困る。
…色々考えてやっと出てきた答え。
正しくいうと
…嫌じゃないけど、やめてほしい。
矛盾しているような感情に自分で疑問に思った。
嫌じゃないなら別にいいじゃないか。
(…?)
真冬といると、ずっと感じるむず痒い感覚がどうにも居たたまれない。
[back][TOP]栞を挟む