13
…お互い顔を真っ赤にして下を向いて黙り込んでしまう。
と、
「う、」
「…う?」
いきなり抱きしめている真冬がぶるぶると真っ赤なまま震え始めて
次の瞬間、変な声が聞こえてきた。
首を傾げる。
「あーっ、ぅううう…っ!」
「…え、ちょ、真冬?!」
変な声を発したと思ったら、突然変なうめき声と同時にどこかに走りだしてしまった。
腕の中の体温が消える。
どこにいくのかと少し焦って、身体を起こした。
急いで振り返って、うわああと声を上げて走っていったその方向を見る。
「……(…)」
そしてそれを見た瞬間、真冬が何をしたかったのか把握して、
…なんだか凄く可愛らしくて自然と笑みが零れた。
「何やってんの」
「……っ、うう…っ、は、はずかしすぎて、げんかいでした…」
真っ赤になった顔を隠そうとしたらしい。
こっちに尻を向けて、カーテンに身体をぐるぐる巻きにしていまだに羞恥心に悶えているらしくぶるぶる震えている。
顔だけを隠せていればお尻は隠せてなくてもいいらしく、頭隠して尻隠さず状態になっていた。
小動物みたいだ。
「…っ、はは…っ、」
(…本当、可愛い)
真冬は一体何でできてるんだろう。
例えるなら空に浮かんでるふわふわの雲みたいな、なんかそんな感じで
そこにいるだけで癒される。
そんなものに今まで出会った事がなかった。
「真冬」
「…ッ、」
呼ぶとビクッと大きく震えるお尻。
「まふゆー」
「…っ、も、もうちょっとだけ、まってくれると、うれしい、です…」
…すごい恥ずかしがってる。
まさかここまでとは。
(…なんか、意地悪したくなってきた)
可笑しくて笑いながらぺたぺたと床に手をついて近づいていく。
できるだけ音を立てないようにしたから、多分真冬は気づいてないだろう。
びっくりさせてやろうとカーテンでぐるぐるまきの身体に手を伸ばす。
…―――その瞬間、
伸ばした腕を突然掴まれた。
「…ッ、え、」
視界が少し暗くなる。
近づけられた顔に驚いて動きを止めた直後、
ちゅ、と唇に当たるやわらかい感触。
(…っ、)
瞼を閉じた顔が離れていく。
まだ状況が把握できずに目を瞬く俺に、えへへ、とどこか照れたように笑いながら顔を真っ赤にした真冬がべーっと少し舌を出した。
「ちゅーのおかえし!」
「…ッ、」
(…やられた)
仕返しじゃなくてお返しって言うのがなんか真冬らしい。
尋常じゃないほど熱くなる頬に、煩い心臓に、思わず笑いが零れる。
(嗚呼もう…)
…こんなのどうしろっていうんだ。
力が抜けてよろよろと倒れそうになるのを必死でこらえる。
額に手をついて息を吐いた。
…可愛すぎて堪らない。
愛しくて胸が苦しい。
胸の辺りをぎゅっと掴む。
何故か泣きたくなるくらい熱く震える胸に、息ができなくなりそうだった。
…まさか、生きてる間にこんな感情を感じられるなんて。
真冬がいなかったら、きっと一生わからなかった。
…やっとどうしてこんな気持ちになるのか理解できた。
今まで度々感じてたけど、よくわからなかった感情の意味。
…今、わかった。
「…好き」
小さく呟いてみる。
言葉にした瞬間に身体の中に広がる波のような感情。
母親から、もっとずっと昔に聞いたことがある。
”好きな人と一緒にいると、胸が苦しくなって…痛くなって、なのに、とても満たされてて嬉しいのよ”
そして…好きという感情は目に見えなくて、気づくのが凄く難しいものだと言っていた。
その時はその言葉の意味がよくわからなかったけど、
…嗚呼、あった。
俺にもこんな気持ちがあったんだ。
ちゃんと、あった。
…あの人に言われたような、誰も好きになることができない『物』じゃなかった。
…嬉しい。凄く、嬉しい。
視界が潤む。
喉が熱く震えた。
息を吸って胸を焦がす気持ちに微笑む。
「…俺も好きだよ」
もう一度、こんどはちゃんと言葉にした声は、少し離れてまたカーテンにぐるぐる巻きになってしまった真冬には届かない。
それでも良い。
俺が、自分でこういう感情を見つけられたんだから。
…真冬が好きだ。
さっき自分が口にした言葉を思い出す。
…”数年後”、なんて自分がどうなってるかわからないのに。
でも、ずっとこれからも真冬と一緒にいたい。
真冬といれば俺は普通でいられるから。
生きてるって実感できるから。
(…真冬と、ずっと一緒に)
…それだけは、絶対に失くしたくない願いだった。
――――――――
その願いは凄く些細なもので、きっと願わなくたって自分たちは一緒にいられるから大丈夫だと軽く考えてた。
…でも、それはどうやっても叶わない願いだったってことを、俺は少し後で思い知らされることになる。
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