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✤✤✤


あの後、ズボンの濡れた感触が嫌でうううと泣きそうに顔を歪める真冬を連れて、あの男と女が家にいないのを確認してまた一緒に風呂に入った。


まだ興奮が収まらないのか、もう一回だけ「そのままだと辛いだろ」なんていまだによくわからずに混乱している真冬にそんなことを言って、硬い性器に触れてビクビクと震えて体液を吐き出して楽になるまで擦ってやった。


(…お湯と一緒に排水溝に流れていく液体がかなりエロい…)


もう朝の四時を過ぎてるから真冬は結構眠気が限界で、シャワーで洗ってる最中にもコクコクと頭を何度も揺らして、しまいには壁にもたれて少し眠ってしまった真冬が色々と危なっかしくてだから今度は俺が洗ってあげることにした。

…新しく真冬の身体に増えた痣に若干顔を歪めて、こんなに蹴ったのかと思うとあの男に苛立つ。


手首はマシになって大分動かせるようになってきたし、リハビリがてらゆっくりと両手を使いながら洗って、風呂から出た後は、とろんと目が半分閉じかけている真冬の髪をわしゃわしゃと拭く。


眠たくてふらふらなのに「おとうさんの…あとかたづけしないと、おこられるー…」なんて、そういう行為をした本人が片づければいいのに、「やらないとだめなのー!」と覚束ない足取りで片づけ始める真冬を手伝うことにして、結局、またコンドームや精液やら色んな汚いモノでぐちゃぐちゃになっている廊下を二人で掃除することになった。


靴がないところを見ると、既にどこかに出かけたらしい。


熱も下がって結構元気になった俺に寝るという選択肢はなくて、
今振り返るとよく他人の家であんなに無防備に寝られたなと驚きつつ、「おねむー…」と抱き付いてくる真冬の身体に少しぎこちなく腕を回しながら抱きしめ返して布団の中で一緒に丸くなる。

俺と一緒にいることに慣れたのか、一瞬でくーと軽く規則的な寝息を立てていた。



(…どうやらキスのことは許してくれた…らしい…)


ちょっといまだに嫌われたのかもなんて…らしくないことを考えて少し緊張してたから安堵に息を吐いて、何の夢を見ているのか「…くーく…」と何故か俺の名前を呟いている真冬に少し微笑んで、軽く瞼を閉じた。


…そしてその次の日の朝、やっぱり気になってキスのことを怒ってないのか聞いたら、「…くーくんはじめて…だった?」なんて聞かれて、なんか初めてって言うの恥ずかしいし嫌だし微妙だし言いたくない…なんてぐちゃぐちゃ考えて。

…でも答えないでいると、泣きそうに顔を歪めるから、…結局折れて「…初めて」とぷいとそっぽを向きつつ羞恥心に駆られながら素直に頷いた俺に、「はじめてならゆるす!」と嬉しそうに顔をほころばせた真冬が抱き付いてきたことで、正式に許してもらえた。…多分。


―――――――――――――――


次の日。


「…何してるの?」

「…っ、ちょ、ちょっとまって…!」


起きて、朝ごはんを一緒に食べた直後、「あ!」と突然大声を上げて、指折りでいち、にー、さんーっなんて数え始めた真冬が床に放り投げられているリュックサックを漁り始めた。

いったい何年前に買ったんだろうと思うぐらいぼろぼろで汚い幼稚園ぐらいの子が使いそうな小さいリュック。
…そういえば、俺と最初にあった日…持ってたような…気がする。…たぶん。


がさがさと何かを探して、「…よかった…」とほっと安堵の笑みを零している。
見つけたらしいものは片手に持ちきれないくらい沢山の花だった。花といっても道端によく生えている程度のものだけど。
ピンク色や白、黄色のものもあって色々ある。
…でも、摘んだのが数日前だからだろう。ほとんど萎れて枯れていた。
土もたくさんついてて、すぐにそれを掴んだ手が汚れる。


「何で拾ってきたの?」

「…え、えっとね、おかあさんがかえってきたらあげるの!」

「…ふーん」



頷きながら、あげるのが楽しみなんだろうというのが見てすぐわかるくらい凄く嬉しそうな笑顔でその花を鞄に戻した。…結構雑だな。


…まさか、そのぐちゃぐちゃなままで渡す気なのか。



「真冬」

「ん?なーに?」

「…ちょっとそれ持ってこっちきて」



はぁと息を吐いておいでおいでと少し離れて適当に真冬を眺めてた俺の方に、手を振って手招きする。
「?」と首を傾げる真冬から花を受け取る。
ついでに多分折り紙とかそういう上等なやつなんてないだろうからチラシを取ってきてもらって、適当に手で切って簡単な包装紙的なやつを作って花を包む。

…これならまだ形になるだろ。


「わー!くーくんすごーい!きれいになった!」

「…ないよりはあったほうがマシだと思う、…から」


家に戻ればもっといい包装紙なんて腐るほどあるけど、絶対にあそこには行きたくない。
褒められるとなんかむずむずして居たたまれなくて、ぶっきらぼうな口調でぷいと顔を背ける。
…正直言って真冬の母親には何の興味もないけど、真冬にこうやって喜んでもらえるのは嬉しい。
何か話題を逸らしたくて思考を巡らせて口を開いた。



「……もしかしてその花って、俺と初めて会った日に探しに行ってた?」

「…うん」

「…?」


いつも通りへらっとした笑顔で頷くかと思えば、…なんだか元気がない。
目を瞬く俺に、寂しそうに微笑んだ。


「ほんとはね、そのひがたんじょうびだったんだ」

「…え、」

「だから、おかあさんがかえってきてくれて、お花わたしたらよろこんでもらえるかなっておもってた、んだけど」


だめだったみたい、とえへへと冗談っぽく乾いた笑いを零して少しその瞳が翳る。
…父親のあの感じを見る限り母親も同じような感じなんだろう。


(…………)


「…寂しかったな」

「…うん。ちょっとだけ、さみしかった」


よしよしと頭を撫でてやれば、「でもね」と真冬が俺の手を掴んであどけなく笑った。
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