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目が真っ赤になるまで泣くまーくんに、その度に俺が一緒にいてあげないとって思った。
「…おれはうまれちゃいけなかったんだ。だから…っ、」なんて言って泣く姿が痛々しくて、胸が苦しくなって、そんなことない。俺はまーくんがいないと生きていけないって言い聞かせた。

「おれも、くーくんがいないといきていけない…ッ。ずっといっしょにいて」って泣いて抱きしめてくるまーくんが愛しくて、そう言ってくれることが幸せで、

だから、「絶対に俺がまーくんを守る。もう泣かせたりしないから」って何度も何度も約束した。


…そう誓った、数日後のことだった。


ピンポーン

チャイムが鳴る。

ビクッと大きく震えて顔を青くするまーくんを庇うように抱きしめて、「ちょっと待ってて」と布団にくるまったままでいるように小声で促して、一応誰が来たのかを確認する為に玄関の覗き穴から外を見る。


と、


視界に映った”もの”に、身体を電光のようなものが貫く。


「……――ッ、…え、」


(…なん、で…)


突如速くなる心拍に、息ができない。
全身から血液がなくなったかのように力が入らない。

よろよろと後ろに倒れ込みそうになりながなら、…落ち着け。見間違いかもしれない。もう一回確認しないと、と一気に冷や汗と冷たくなる身体に鞭を打って裸足の足を動かして覗き込もうとした、


…その時、


バリンッ!!

そんな何かが割れるような音と同時に、ドン、と大きな音。

…それは、まーくんのいる…居間の方からで、


「ッ、」


心臓が凍り付く。
まさか、なんて考えるよりも先に身体が動いた。
嫌な予感に背を押されるように走る。

…居間のドアを開けた、瞬間


「…っ、まーくん…ッ!」

「へー、まーくんって言うんだ。このガキ」


知らない男に靴を履いたままの足でぐりぐりとお腹を踏まれて床に押し付けられている姿。
蹴られたのか、額から少し血を流している。
足が動くたびに苦痛の声をあげるまーくんに血の気が引く。

窓の方を見るとガラスが割られていた。
内側に欠片が散らばっている。


「ッ、殺す」

「おーおー、小学生ごときがそんな物騒なモン持っちゃって」


握った包丁で切りかかろうとすると、その男の背後から何人も現れる黒服。
どれもが仮面のような顔で見分けがつかない。

…それは、どう見ても”あの人”の犬達で、


(…見つかった)


なんでここがばれたのかなんて今までのことを振り返って考えてみても、やはりあの母親しか思いつかないわけで。


「…っ、まーくんを離せ」

「蒼様。お迎えに参りました」


無機質にそう言葉を吐いて人形を、軽く殺意を込めて睨みつける。
その何も感じていない目で見られると、自然と身体が強張って震える。


「抵抗しないで頂けると有り難いのですが」


不意にすぐ近くから聞こえる声。

直後、いつの間にか背後に来ていた黒服に首の後ろを掴まれて床に乱暴に押さえつけられた。
無理な力で床にたたきつけられたせいで肺が潰れる。
一瞬呼吸ができなくなった。


「…ッ、!!…っう…ッ、げほ…ッ…」

「清隆様が屋敷でお待ちです」

「……っ、…あの人、が……生きて、る…?」

「はい」


躊躇いなく頷く声に、ぶわっと嫌な汗が噴き出る。

…あの人が生きてる。
死んでない。

殺し損ねた。


……俺は…失敗、した…?

チャンスはもう二度とないかもしれないのに。

サアッと全身から血の気がなくなる。
戻りたくない。
あんな場所、もう二度といきたくない。
見たくない。
嫌だ。いやだ。もう嫌だ。


「っ、俺はもう関係ない」

「…では、蒼様はこの子どもがどうなっても構わないと?」

「…っ、」


脅すようなセリフと、まーくんに近づけられる”モノ”。
その手に持っている注射器を目にして、恐怖に身が竦んだ。

(…ぁ…、…あれ、は…)

中に入っている液体に…嫌な感覚が呼び戻される。

あんなものを絶対にまーくんに打たせるわけにはいかない。
あんな思いを、苦痛を、まーくんにさせるわけにはいかない。

…色んな感情が身体の中でぐちゃぐちゃになって、吐き気がした。
込み上げる嘔吐感に息が詰まる。

でも、ずっとそんな感覚にとらわれてる場合じゃない。


周りに視線を向けて、思考する。


どうすればいい。
…俺は、どうしたら…


「…あはは…っ、お前勝てると思ってんの?こんな大人大勢に対して小学生ひとりで?…そんなの、無理に決まってんだろ」

「…やってみないとわからない」

「は?…本気かよ」


わかってる。
どうみたって今の状況で俺に勝ち目なんかない。
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