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でも、それでも。
必死に周りを見て、状況把握をして、なんとか勝てる方法がないかを模索する。

…そんな簡単に諦められるほど、俺とまーくんの時間はどうでもいいものじゃない。

後ろから肩と首を掴む手から逃れるように身を捩る。


(…考えろ)


あの人の犬は6人。そのうちの一人がまーくんに注射器を刺そうとしていて、
まーくんを踏みつけているのは高校生くらいのかなり若い男。

…一番殺しやすそうなのはあの男だけど、そうするには今自分を押さえつけてる男をどうにかしなければならない。

でも、自分とはあまりにも違う体格差。


「…っ、」


(…どうすればいいっていうんだ…ッ、)


どう考えたって、俺には今の状況でできることなんてなくて、

…こいつらはやるって言ったら本当にやる。躊躇なく、情もなく。

だから選択を間違えれば、呆気なくまーくんは殺される。…死ぬ。

…これ以上、まーくんを悲しませたくない。苦しめたくない。

そんなの、もう見たくない。

(…守るって約束したんだ)


だから、


「…くー、くん…、」

「…っ、…」


苦痛の入り混じった、掠れた声で俺を呼ぶ声。
その方向を見れば戸惑うように揺れる瞳が見えた。

唇をぐっと噛んで、逸らすようにして俯く。

濃い鉄のような味が口腔内に広がった。

瞼の裏が熱くなる。
じわじわと瞳にたまる涙に、喉が震えた。


「…分か」

「まって…っ」


(……ッ、)


今にも泣きだしそうに叫ぶ声。

「…っ、まーく、ん…」

「…くーくん、どこかにいっちゃう、の…?」


無理矢理立たされて、連れていかれようとする俺に
こくんと唾を飲んで驚愕しているように目を瞬かせて、その小さな手を伸ばしてくる。

…でも、男に腹部を踏まれてるまーくんの手が…俺に届くことはなくて、


「…っ、くーく…あ゛…ッ、ぃ…ッ」

「…ッ、やめろ…っ!!」

「…はは…っ、可哀想になぁ。お前もこのガキと関わんなきゃ、こんな目に遭わずに済んだのに」


悲鳴のような声が喉の奥から出る。
まーくんの腹部に置いた足を嘲るように笑いながら動かされて、その都度上がる声。苦痛の表情。

(…俺のせいで、…ッ、)

その男の言う通りだった。

俺がまーくんに近づかなければ、こんなことにはならなかった。

今、まーくんにそんな顔をさせずに済んだんだ。

…容赦ないその踏み方は靴の角が当たってかなり痛いはずで、

……それなのに

動けば動く程自分の痛みや負担は大きくなるのに

…自分の痛みなんか気にならないというように、無我夢中で暴れる。
ぼろぼろと大粒の涙を零しながら「いかないで…っ、」と泣き叫んで引き留めようと必死に手を伸ばしてくる。


(…――ッ、)


そんな行動に心臓をぎゅっと掴まれたような感覚に陥って、


「…ごめん、」


目を伏せる。

…こんな言葉しか言えない。

ごめん。ごめん。俺のせいで、苦しめてごめん。

ずっと一緒に居るって約束したのに…嘘ついてごめん。と小さく呟く。


「…俺を助けてくれて、…救ってくれて…ありがとう」

「…っ!」


泣きはらして涙でくしゃくしゃになっているまーくんに、微笑んで背を向けた。

責めてくれればいい。約束破りって、嘘つきだって、無責任だって詰ってくれればいい。

…でも、背後から聞こえるのは俺を求める言葉だけで、

「…っやだ…」と後ろから聞こえてくる嗚咽まじりの声に、歩みを進める足を止めそうになる。
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