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…夜、また鎖で繋がれてコンクリートの部屋に放置。

でも、この時間はまだ一日の中で一番マシで…何かをされるよりも放置されるだけの方がかなり楽だということに改めて思い知らされた。


あの日以来毎日…椿という男だけでなく、…俺を元々変な目で見ていた女まで数えきれない人数が部屋に入ってきて、延々と続く行為によって汚れた身体は全部、いつも通り手下どもに風呂場で洗い流された。
その後上から新品の着物を着せられて、何事もなかったかのように元通りになる。


今日も”教育”という名目で、その日と同じような嫌な時間を繰り返させられる。

あの人の言う通りだと思った。
こんな日々を毎日過ごせば、反抗する気なんかさらさらなくなる。
あの人に逆らおうなんて思えなくなる。

ずっとコンクリートの床に膝をつける体勢のせいで、抉れてすりむけた膝頭から血が滲んで床に滲んでいる。


(…まーくん…)


今日も何度その名前を呼んだだろう。
声が枯れるほど、喉が潰れるほど口にした。


でも、今は呼べるだけの声が出ない。
最初の日、…あれだけ気が動転して、狂っておかしくなった感情はその後俺が気を失うたびに数えきれないほど打たれた薬によって静かになっていった。


脳が麻痺している。
そう感じるほど、心が動かない。
何の思考もできない。
身体が酷く怠くて指先すらピクリとも動かせなかった。

今は感情が消失したかのように何の考えも浮かばなくて、本当に自分が人形になったような気がする。


さっき風呂に入ったせいで濡れた髪から滴る水が首筋を通って服に染みていった。
その重さで重心が下に下がって余計に天井からぶらさげられた手枷がある手首と、地面についた脚と膝に負担がかかる。


「………」


小窓から零れてくる月の光。
怠く顔を上げてそこに手を伸ばそうとすれば、鎖が邪魔をして中途半端な格好になる。


そういえば…月に照らされたまーくんの顔は凄く綺麗だった。
この世のものかと思えるほど、美しかった。


「…ま…ー…く…ん…」


呟いた瞬間に、心臓を掴まれたような痛み。
顔が一瞬歪む。

でも、その痛みはすぐに消えてしまって、気のせいだったのかと錯覚するほど今はもうない。
もう何の思いもない。
それでも、まーくんの名前を呼んだ時だけ、…存在を想った時だけ
何かを得られるような気がする。

…だから…もう一度、まーくんに会ってその感覚を強く味わいたかった。


会いたい。会いたい。会いたい。


まーくんのことだけを想う。
そして好きなように身体を使って遊ばれる。



そんな日々が続いたある日


繰り返される行為に自分の何かが壊れる音がして
そうしてずっと亡霊のような状態で身体が生きてるだけの自分に、呆れて失望した表情をしたその人は言った。


”いい条件を出してやろう。お前が俺の提示する稼ぎをすれば、お前に高校まで柊真冬と同じ学校に通わせてやる。私用で俺は家をしばらく空けるから、その数年間はお前にこの屋敷を預ける。どう扱おうが構わん。好きに使って良い。だから、今は結果を出せ。それまで全力で俺の役に立て。取引相手で都合の良くなるように色んなヤツを抱け”…と



条件を満たせばまーくんに会える。
もう一度会える。

それだけが救いで、
それだけが生きがいだった。


(…絶対に、迎えに行くから。それまでに、まーくんを守る力を手に入れてみせるから…)


だから、どうか…いつかまーくんに会える日が来ますように。


願うだけではどうにもならない。

これまでのようにあの人の…父親の言う通りにするだけだったら、これから一生自分は操り人形で終わってしまう。

…そんなものでは終わらせない。
都合のいいだけの人形で自分を終わらせる気はない。

そのために…俺も色々と行動しなければならない。


――――――

…何をすればいいか。
そんな方法、もう知ってる。

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