欠けた心が、どうやっても満たされない




帰った後。

ベッドの上に座って、いつものようにこっちを見上げるまーくんの手首を掴んで押し倒した。
乱暴に脱がして、唇を塞いで、交わる。

アイツのせいで感情が乱れて、自分でも何をしてるかわからないくらい精神状態がぐちゃぐちゃだった。

苛々してると特に抑えが効かなくて、滅茶苦茶に身体中を貪って。

怯えて涙を流す表情を見て鈍器で殴られているように痛む胸はもうやめろと幾度も自分に訴えかけているのに、何故か意思に反して行為を激しくしてしまう。


「…っ、そんなに、アイツのことが好き?」

「…そ、ゆ、ことじゃ、なくて…ッ、ァ…ッ!ぁ、ひ…ッ、、」

「なら、なんであんな嘘つきのために泣いてるの?偽善者で、騙して、まーくんを俺から…ッ、」


…引き離そうとしたのに。

アイツだって自分のエゴでまーくんを手に入れようとした。

まーくんの将来を考えたら自立した方がいい、とかそういう理由で俺から離れさせようとしたと思ってるんだろうけど、全く違う。

まーくんのことを”そういう目”で見ているから、単に傍にいる邪魔な俺を遠ざけようとしただけだ。


「…ぅ…っ、ひ…っ、く…っ、ぅ゛…ッ、」

「…っ、はは…っ、また、まーくんを泣かせた、」


嗚咽を漏らして泣きじゃくりながら、俺の思いのままに揺さぶられ続ける。
涙で濡れた顔を隠そうと覆っていた手に自分の指を絡めて、そこから退けた。
繋いだ手に感じる、お互いの汗ばんだ肌の感触。

晒された顔は快感と苦痛と後悔が混ざりこんでいて、酷く艶めかしい。

いっそのこと睨んでくれたら楽なのに、まーくんは涙で潤んだ瞳をぎゅっと瞑って、顔を反らすだけだった。
ベッドシーツに濃く染みていく、精液とは違う液体。


「泣かせたくないって思ってたはずなのに、…なんで、まーくんはまた俺の前で泣いてるのかな」

「…ッ、……」

「なぁ…まーくん、笑って。…アイツに向けてた笑顔を、俺にも頂戴」


笑おうとして、うまく笑顔を作れない。
それでも微かに残った理性で必死に優しい声色を使って、縋るようにその身体を抱いた。


…アイツといる時、まーくんは凄く嬉しそうに笑ってた。
俺と一緒に居る時より、ずっと楽しそうで、幸せそうな笑顔を浮かべていた。

例えそれが一時的な物だろうと、…妬ましかった。


…強烈な嫉妬心。


まーくんは何も知らないから、覚えてないから…そうやってすぐに他人を信用できて、自分に向けられる汚い感情に気づけない。



「…いいよ。別にそれでも、…今まーくんがこうしてる最中に他の誰のことを想ってたとしても、その身体は俺のモノだから」

「…っ、やめ…ッ、やめ、て…っ、…ひ、!…ぅっ、」



まーくんの着ている黒で彩られた着物が、全て真っ白に染まるまで犯す。
もう既に元々その色だったんじゃないかと錯覚するほどに、お互いの服だけでなくベッドの上も飛び散っ白くドロドロとした精液で汚れていた。

部屋に響く涙声交じりの淫らな声と激しい水音。

その両脚を腕で抱えるようにして高く持ち上げて、体重を乗せながら腰をぶつけて距離を失くす。
何度も何度もわざとグチュグチュ後孔に注いだ白濁液を掻き混ぜるようにして音を鳴らしながら揺さぶって、欲を吐き出した。


いい加減、こんなことを何度繰り返しても暗く濁って穴の開いた心は一向に埋められないことくらい自覚していた。


満たされない。満たされたい。満たしてほしい。


「…ッ、…」


どうにもできない感情を持て余して、皮膚が擦れる勢いで唇を奪う。
額から零れた汗が、目から頬を伝って顎に流れ落ちた。


―――――――――――


そして汚れた身体を洗うために、一緒に風呂に入って。
その後部屋に戻ってから、抱き上げていた足腰の立たなくなってしまった身体をベッドにおろした。


「…ごめんな」


布団をかけて、静かに呟く。
あまりにも軽い言葉に自分で嫌気がさす。
うとうとと瞼を閉じかけていたまーくんは俺を見上げて何かを言葉にしようとして、体力が限界だったらしく軽い寝息とともに完全に眠りに堕ちた。

いつ起きてもいいように、なるべく怖がらせないように壁の隅で蹲って片方だけ立てた膝に顔を埋める。
最近切っていないせいで少し長くなった前髪が目にかかった。
それだけじゃない。横も結構長くなってきている。
…邪魔だな。

ああそうだ。まーくんの髪も随分伸びたから切らないと。
美容師にさせるか、俺が切るか。
…やっぱり他の人間に切らせるのは嫌だから、俺が切ってあげたいな。


カーテンを締めていない窓から、電気をつけていないこの部屋に月の明かりが差し込む。
…まーくんと縁側で一緒に見た月も、確かこんな感じでキラキラと光っていたような気がする。

その思い出は随分昔のようで、…遠い。


「…まーくん、」


ベッドの上で白雪姫のように眠る姿に、小さく呼びかけてみる。


「……絶対に、俺が守ってあげるから」


そう呟いた自分の言葉に生まれている矛盾。

…あーあ、と情けなく吐き出した言葉は酷く震えていて、どうしようもなく胸を苦しめた。
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