20

「…なんで、鍵を開けたんだよ」

「……」


悲痛な声と、その表情に絶句する。
濡れて肌に吸い付く髪なんか気にもせずに、俺をじっと見つめる。
くしゃりと泣きそうにゆがんだ彼の顔に…何も言葉を返せない。


「逃げたかった?俺が嫌で、俺から、――っ」

「……ごめん」


自分でも何を謝っているのかわからなかった。
鍵を開けたことを謝っているのか。
ただ、逃げたいと思う気持ちがある罪悪感からなのか。
わからない。

でも、ただ、謝りたくて。

…どうしようもなく、申し訳ない気持ちがあふれてきて。

言葉を遮るように、ぎゅっと抱きしめる。

驚いたように強張る蒼を抱き締めていると、その身体が震えているのが伝わってくる。
濡れた背中に回した腕に少し力を入れると、一瞬びくりと震えた蒼に、もう一度小さく謝った。

ここまで弱っている姿を見たのは初めてで。

どうしようもないほど、苦しいほどの庇護欲が湧き上がってくる。


「…まふゆ」


肩に顔を埋めてくる蒼に、「…うん」と小さく返す。


「――…俺から、離れていこうとしないで」

「……うん」

「俺以外を、視界に入れないで」

「…うん」


彼の髪を撫でながら、服越しに伝わる身体の震えを感じて、…静かに目を閉じた。


「…わかったから、蒼、…だから、」


だから、そんな顔しないで。

―――――――

(…絶対に、なんて約束はできない)

…でも。

それでも、蒼を悲しませたくはないから。
ただ、その小さな子どもみたいに震える身体を抱きしめながら頷く。
どんなことをされても、蒼を本気で嫌うことなんてできないのかもしれないと、ふと思った。
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