思い出させようとすればするほど、



最初は嬉しかった。

好きだって、愛してるってまーくんに言ってもらえることはなんて幸せなんだろうと思った。


…だからっていって、今が嫌なわけじゃない。どうあっても、俺の感情はまーくんによって容易に動かされるから、正直言えば今だって十分幸福だった。満ち足りている、


…はず。


なのに、


(……違う。)


「蒼…っ、あお、い…ッ、」

「まーくん…俺を見て」


(…ちゃんと、見て)


「っ、みて、るよ…?」

「嘘つき」

「うそ、じゃな…っ、」

「……うそつき」




……まーくんは、嘘つきだな。自覚してないところが…本当、酷い。



縋るように強く抱きしめても、薬漬けになったまーくんはただ甘い言葉だけを唇にのせながら俺を抱きしめ返すだけで、

……こんなに隙間がないくらい抱きしめているのに、何故か心臓はロープで縛られて絞られているように苦しくなる。


「…ッ、」


やっぱりまーくんが求めているのは”誰か”であって俺じゃない。


好きだって、愛してるっていうくせに、…その瞳が…”俺”を映すことはなくて。


(…まーくんの、ばか)


胸の中で吐き捨てた言葉は相手には届かない。


「…なんで、」


ぽつりと震える息を零す。


(…っ、なんでだよ…ッ、)


もうここまできたのに。
後戻りできるはずもなくて。
元になんて戻れるはずもないのに、今更何を悲しんでるんだろうと思った。

好きだって思わせて、何度もセックスして、好きだって、愛してるっていわせて。


……俺は本当に、こんなことがしたかった…?


わからない。


けど、


「…っ、」


酷く浅い呼吸で、若干蒼白な色を肌にのせながら眠るまーくんの、その首を窒息しない程度に締めた。
細く、白い首。
強く掴んだら、それだけで声も出せずに死んでしまいそうな、そんな感じで。

…掴んだ手のひらと指先に感じる頸動脈の脈打つ音。振動。体温。


段々と締まっていく気管支に、寝苦しそうに眉を寄せたまーくんが、小さく声を漏らした。
閉じていた瞼がゆっくりと持ち上げられる。


その寝ぼけ眼な瞳が俺を映して…驚いたように見開かれた。
ずっと眠っていたせいで薬がある程度抜けたからか、その瞳にいつもより理性が宿っている。
直後、動揺と驚愕の色に染まる。



「…ぇ、…?」


「おはよう。よく眠れた?」


こうすれば、少しでも何かまーくんにとっての大事なモノに触れることができるだろうか。
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