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「……ぐ、」
なんか、ムカついた。
どうにか応戦できまいかと考えに考えあぐねた結果、ぐぎゅ、と眉を中心部に最大限まで寄せて、ぷいとくーくんと逆方向を向く。
「…口移し、して」
「…え、」
「薬!じゃないと、飲むのやだ!」
絶対にやだ!と身体まで反対方向を向いて、つーんと拗ねてみせた。
可愛いばっかり言うから、せめて口移しって言ったらなんか可愛いじゃなくて…大人っぽくなれるような気がして、だからそれを要求してみる。
だけど、怒ってるおれになんか全然怯まずに怒りを収めようと普段通りに頭を撫でてくる手。
「ごめんって。まーくんが可愛いから、つい揶揄いたくなったんだ」
「…っ、」
なでなでしてくるから、一瞬ほだされかけて、だめだだめだ!と首を振って振り払った。
しかもまた可愛いって言った…!!許せぬ。
窺うように覗き込んできた顔とは反対方向を向く。
ぷい
「まーくん、ごめん」
「……」
ぷい。
「…ごめん、」
「……ふん」
ぷい。
「…まーくん、」
「おれが許すのは口移し限定です!それ以外は認めないです!」
変な敬語になりつつも、精一杯怒ってるんですオーラを醸し出して、早くしたまえと催促した。
「……」
「やらないなら、くーくんのことだめだめ男認定しちゃうからね!」
最早自分でも何でこんなことを言い始めたのかわからなくなってきた。
最初は可愛いって言ったことを後悔させるための行動だったはずなのに、なんだか口移しをしたいがために怒っているふりをしているような気さえしてきた。
……ん?おれ、くーくんとキスしたかった…だけ…なのか、な?
と自分がしたかったことさえぐちゃぐちゃになってきて、混乱してくる。
けど、一度始めてしまっただけに後には引けない。
「?」「?」と一人で困惑して、まぁいいやと考えを放棄する。
そして、さっきまで何度もおれを追いかけて覗き込んできていたくーくんの姿がなくなったことに気づいた。
同時に…いつの間にか部屋を包み込んでいた沈黙。
(……、)
…ちょっと気になって薄目を開けて、いっそのこと振り向いてしまいたいのを我慢する。
「……」
…もしかして、怒らせただろうか。
ちょっと調子に乗り過ぎた。
そんなに、おれに口移しするの嫌だった…?と若干泣きそうになってくる。
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