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「なんて顔してんの」
「…だ、だって、」
もにゅもにゅと口元を動かして羞恥心に耐えていると、可笑しそうに笑って「はい」と手渡される何か。
手の上に置かれたものを見て、ぴたりと身体が固まる。
「…え」
「ほら、ちゃんと飲んで」
「…って、え?!!!」
顎が外れそうな程驚いた。
…手のひらに置かれたのは、さっき…く、口移ししてもらったはずの薬。
何回このやりとりしてるんだ…じゃなくて…!!
さっき飲んだのに!!
「あれ、普通の飴玉だったんだけど…。気づかなかった?」
「……」
「…甘いとか感じなかった?」
「……ぐ、」
ふわりと楽しそうな、余裕の笑みを浮かべたくーくんがふにふにとほっぺを弄んでくる。
ぐ、ぐぐぐと悔しさに歯をぎりぎりした。
そんなものよりくーくんとのキスに一生懸命で頭まわってなかった…!!!
心臓の爆撃音でそれどころじゃなかったのに、何なんだ一人だけ大人ぶって、…くーくんのばか!!
「み、水は?」
「喉渇いてたし、丁度いいかなって」
「…はへ、」
開いた口が塞がらない。
(…え、えええ)
「それに飲まないといけない痛み止め、舐めて溶かしたら意味ないし」とそうさせた張本人にも関わらず淡々と言ってのけるくーくんに、またぎゅーぎゅー抱きしめられながら、ぽかんとしてアホみたいに口をあけながら、問う。
「……じゃ、じゃあ、ただ、おれにキスした、だけ…?」
「うん。したくなったから」
(な、なんだそれ…。)
しかし嬉しい…!!
し、「したくなったから」って、なんだよもう…!!かっこいいよ素敵だよくーくん!!
きゃーきゃーと恋する乙女みたいに嬉し恥ずかし居たたまれなさでわーにゃーしながら「も、もう!くーくんのばか!」と照れ隠しで暴言を吐いてみる。
…と、
「…まーくんだって途中からノリ気だったくせに」
「…あが、あがが…」
じとっと拗ねたような目つきで見られて、ぼそりと呟かれる言葉。
(…き、気づかれていた…とは、)
凄く凄く恥ずかしい。
羞恥心に入れ歯が外れたお婆さんみたいな声を出して、頬をじゅわーっと熱くする。
くっそう仕方ない!と勢いにまかせて、がばりと開いた口の中に錠剤を入れてごっくんと水で飲んだ。
そうして、しばらくしてぎゃーぎゃ騒いで、ぴたり、と動きを止める。
…ふと、今気づいた気がかり。
指で自分の唇に触れて、…ふむ、と考えた。
「でも、なんか…」
唇に触れた指で、自分のをむにむにつっついてみる。
ついでに、くーくんの形の整った唇もつんつんした。
…こ、この唇がさっきおれに…ってそうじゃなくて、ぶんぶんと首を振って邪念を振り払いながら、
ぽつり。
懸念を吐く。
「くーくんのキス、」
「…ん?」
「前より凄い上手くなって…慣れた、気がする…」
「……」
……沈黙が、部屋を包み込んだ。
そんな反応にむかっと眉を寄せる。
「ね、何今の沈黙!!もしかして色んな人とキスした?!おれの知らない間にした?!!!」
「いや、だって、」
どうなんだ!と詰め寄ると視線を逸らされる。
「あー!逸らした!目、逸らした…っ」
それがなんだかおれの言葉を肯定しているような気がして、「…っ、」段々と瞼が熱くなってくる…と、くーくんが、不意をつかれて喉を詰まらせたような表情を浮かべた。
「…そもそも、まーくんの言う”前”がいつのことかわからないんだけど」
「前は前!」
誕生日の時とか、一緒に遊んでる時とか、……くーくんは覚えてないんだろうか。
だけど、それを問いかけて、…忘れられていたら本当にショックだから口にする勇気もない。
…しゅん、と頭を垂らして、俯いたまま拳を握る。
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