19

それから、ゆっくりと顔を上げて、じっとくーくんを見上げる。
目が合って、困ったように細められる瞳。


(…もし、くーくんが他の人と、ちゅーしてたら、…)


さっきみたいに、あんな表情で、あんな感じで、

……誰かを抱きしめて、唇を重ねて、


「…っ、」


…やだ。

絶対に、やだ。

想像して、ぎゅっと心臓が鷲掴みにされたような痛みが走る。
痛い。痛いの、なんでこんなに、苦しい。



「…っ、ぇ…」

「まーくん?どうかした…?」

「…っ、ひ、」


もう、ばかだ。
勝手に想像して、勝手に、涙が出てきた。
くーくんのことになると、…くーくんと関わることだと、すぐに泣いてしまう。

突然何の脈絡もなく泣き出したおれに、彼は虚を突かれたように目を見開いて、すぐに心配そうな表情を浮かべた。
頭を撫でてくれる手の平に、また涙が弾ける。

迷子の子どもが親に手を伸ばすように、腕を伸ばしてその身体に縋った。


「…あのね、くーくん」

「ん?」

「お願い、おねがい、がある」

「……」

「…ので、聞いてくれ、…ませんか…」

「…何?」


だどたどしく、尻すぼみになる言葉。

胸が、痛い。痛くなって、呼吸ができない。

だから、

…また、わがままを、吐く。

だめだってわかってる。
だけど、止まらない。
くーくんといると、わがままだってわかってても止まらなくなるんだ。

じっとその唇を見つめて、そこに指で触れた。


「おれ以外の、…他の人とはキスしないで」

「……」

「きっとくーくんは格好良くて、モテて、だけど、しないで、ほしい…」


独占欲。
他の人には感じたことのない、醜い独占欲で胸がいっぱいになる。

…困るかな。こんなこと言われても、嫌かもしれない、けど、


「も、もしくーくんが他の人としたら…おれ、おれだって、しちゃうからな!」


胸にぎゅっと縋りついたまま怖くて顔が見れない。

それに目立った反応がないことにも怯えて、勝手にそうやって反抗的な言葉を吐いてしまう。
こんなの脅しにもならないだろうけど、


「…だって、おれはくーくんのだし、くーくんはおれの、だから…」

「…っ、」

「ね、おねがい…」


そう呟いて胸に顔を埋める。と
少しだけ、その身体が震えたのを感じた。
prev next


[back][TOP]栞を挟む