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だから、だからね、
「絶対に消えない、跡…つけて」
「…っ、」
こつん、と合わせるようにおでこをくっつける。
縋りつくようにその掴んだ服をぎゅっと握ると、一瞬泣きそうにその双眸が潤んだように見えた。
冷たかった瞳が、その色を柔らかくする。
……もしこの傷が他の知らない人につけられたんだったら、それを見てくーくんが嫌な気持ちになるんだったら、こんなものいらない。全部消してくれればいい。
どんなに痛くても構わないから…もっともっと酷い傷をつけて、見えなくしてくれればいい。
「さっきも言ったけど、おれは、くーくんのものだから」
「…ッ、まー、くん」
「…というか…そうなれたらいいなってずっと、思ってた」
知らない過去なんてどうでもいいとさえ思う。気にしない。
…昔…おれはいつも独りだった。
お母さんもお父さんも帰ってこなくなって、そうやって家で帰りを待ちながらひとりで遊んでる間に、気づいた。
産んでくれた人に必要とされないってことは、おれには何の価値もなくて、生まれてこなければお母さんとお父さんは離婚できて、そうしたら誰の邪魔にもならなくて済んだのにって、それで、そこにいることも、呼吸をすることすら罪な気がしてて、
…だけど、くーくんが必要としてくれるから、「大好きだよ」って、「傍にいてほしい」って言ってくれるから…生きてられる。生きてていいんだって、思えるから。
だから、そう言ってくれた時、凄く凄く、涙が出るくらい嬉しかった。
「…まーくんは、不安じゃないの?」
「?うん。不安なんかないよ」
くーくんの問いに、躊躇いなく頷く。
そうすると、怪訝そうに寄せられる眉。
「ここに来た記憶もなくて、…なんでここにいるのかも、いつからいるかってことも覚えてないのに?」
「……」
「最初…あんなに泣いてた…のは、不安っていうのもあったんじゃないの?」
…確かにくーくんの言う通り、どうして自分がここにいるのか覚えてない。
自分の首や手足にある…何か固いものをつけられていたような跡も感触も残ってるし、気づいたら怪我も数えきれないぐらい沢山してた。
だからかな。
最初に目が覚めた時は何かを思い出して、…覚えている気がして、気が動転しておかしくなってたような気がする…けど、もうその時のこともあやふやで、それも日にちが経つと同時に薄れて、遠くなって、消えてしまった。
…だけど、それでも…心のどこかで覚えてる。
くーくんの声がおれにずっと、”まーくん”って呼びかけてくれてたこと。
一緒にいることを望んでいたこと。
…自分のことを、忘れないでって言ってたこと。
それと、おれにはどうしても何か忘れちゃいけないことと、だけど忘れないといけないことがあって。
「くーくん」
顔を上げて呼びかけると、見つめている瞳が揺れて、酷く頼りなげになる。
それを見て、トクン、胸が高鳴った。
「あのね、」
相手の頬に触れて、笑う。
笑顔だけがずっとおれの役目で、そうしてした行為だけしか相手を喜ばせるための方法を知らなくて、今までそうやって頑張った時にしか…欲しいものを見ることができなかった。
けど、くーくんだけは違ったから。
「おれ、……くーくんの笑顔が、凄く大好き」
「…っ、」
ちょっと不器用な感じで、笑うこと自体に慣れてないのに…それでも笑顔を向けてくれた。
おれがくーくんに対して利益のある行動とか、してほしいだろうなって思うことをしなくても、優しく笑ってくれた。抱きしめてくれた。いい子って言って頭を撫でてくれた。
その笑顔を見るだけで胸があったかくなって、泣きたくなって、生きててよかったってその度に思う。
「それだけじゃなくて、くーくんの怒った顔も、寂しそうな顔も、拗ねた顔も、…泣きたくて、でも泣けなくて、それで苦しいって思ってるところも全部が好きなんだ」
好き。大好き。
何回言っても飽き足らない。
もう一度、好き、と小さく零す。
そう口にすると、おれの大好きな人の顔が、更にくしゃりと泣きそうに歪んだ。
その言葉をおれが吐くと、彼はいつもそんな顔をする。おれが、……そんな顔をさせている。
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