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ぐりぐりと額をこすりつけるようにして抱き付く。
くーくんが元気になって、約束もできた。
うへへ、嬉しい。嬉しすぎる。
「…ちゅー、して」
「……」
瞼を閉じると、唇が優しく重なる。
そうして、離れたくーくんに笑い返して、ふいに瞳を伏せた。
抱き締めてもらいながら、顔を隠すようにその胸に顔を押しつける。
ぎゅううっと掴んだ服を握りしめた。
(…あのね、くーくん。おれ、…)
ちょっとだけ、嘘をついてることがあるんだ。
今の、ほとんどのことは分からないけど、…本当は少しだけなら覚えてるんだよ。
どうして傷ができたのか、とはそこらへんのことはわからないのに、目を閉じれば浮かぶ、…光景。表情。うっすらぼんやりとだけど、なんとなく、ところどころは思い出せた。
おれじゃないおれが、だけど…ちがうひとじゃないおれが、くーくんを悲しませることばっかりして、そのせいでくーくんは辛くなって、泣きそうな顔をして、…だから、そんな顔をさせた自分を、おれは許せない。
守るって約束したのに。決意したのに。
…だから、今度こそくーくんが望むことならなんでもする。したいと思う。
だけど、人が人に必要に思ってもらえる時間は、…何かを期待してもらえる期間は無限じゃなくて、有限だってことも、知ってる…から、
「……くーくん、大好きだから、…ずっと一緒…」
「…うん。ずっと一緒だよ」
ぽつりと、小さく呟いた言葉はおれを抱きしめる彼の耳に届いて、優しく応えられる。
…せめて、今だけでも必要としてもらえるように…これからちゃんと頑張らないと。
――――――――――
(…もし、)
(もしいつかくーくんにも必要ないって判断されたら、捨てられちゃったら、今度こそ…その時はすぐに死んでもいいって思うんだ。)
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