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――すると、


「……っ、」


今までにないほど、息を呑む気配と、動揺しているような雰囲気が伝わってくる。
…それを感じて、…かああ、と自分でも慌てふためくほどに…頬が、全身が、熱をもって、自分の唇から出た言葉の意味を嫌でも実感させて来るから

地震でも起きてるんじゃないかって思うくらい、目の前がぐらぐら揺れている気がする。

…あんなに勇気を出して、色っぽく見せたくて、頑張ったのに、…今は、もうそんな気力は一瞬で萎んでいた。


少し冷たい空気が、…露出させた肌を掠めていって、
俯いた視界に、何も纏っていない肩と胸元を晒しているのが見えて、


「………」

「……………」


…その、一瞬なのに、何十時間とも錯覚してしまいそうな沈黙に、


狼狽えた。
自分で言ったくせに、言った言葉に自分でうああと今すぐに泣いてしまいそうなくらい慌てる。取り乱す。


「…ま、」

「あ、あの、でも!!!」


彼の裾を掴んでいた指を外して、ぶんぶん顔の前で手を振った。
あああ、耐えられない。

……この雰囲気に、耐えることができない。

ピンと張ったピアノ線がゆらゆらと大きく不安定に揺れるように、心が震える。


「もし、…それでも、…くーくんがおれのことを、そういう意味で、好きじゃなくて、おれの気持ちが重いって言うなら、」


彼の声を遮るようにして、一応防衛線を張る。
…断られても大丈夫なように、自分が傷つかないように、泣き出したりしないように、


「…こんな傷だらけの身体は、嫌、かもしれないんだけど、」


だって、彼の大嫌いな人につけられたって言ってた。

…ってことは、多分くーくんはこの傷を見たくもなくて、それに、おれにも色気とか、そういう類の魅力は全然ないから…だから、嫌がられても仕方ないんだって、わかってる、けど、…


「…その、身体だけのかんけー?ってやつでも、いいので、…っ、くーくんがなんかむしゃくしゃしたときとか、利用できそうな時にそういう行為をする、みたいな、」


それでもいいから、と

みっともなく、そんな沢山の言葉を並べて縋る。
…こうして思いを吐いていくと、結局、…くーくんが安心できるからとか、そういう理由じゃなくて、…自分が彼とそういう行為をしたかっただけなんだってことに今になって気づいた。


…もし、おれの好きとくーくんの好きが違ってたとして、

彼がもっと軽い好きが欲しいって言うなら、できるだけ、そうするようにしたい、のに、

したかったのに、


「え、えへ、何を言ってるのかわからなくなってきた…」


困ったときの癖で、顔を下に向けたまま…へらへらと緩い笑みを浮かべた。
じんわりと涙腺が緩んで、目に薄い膜を張るのがわかった。


(…恥ずかしい)


唇をキツく結ぶ。

頬が熱い。

…これで、また、拒まれてしまったらどうしよう。
こんなことまでするおれを、厭らしいと思われないだろうか。
気持ち悪がられないだろうか。

ぐるぐると嫌な考えばかりが思い浮かんで、ぎゅっと瞼を瞑った。

すると、


「…まーくん」


…少しの静寂の後、…ぽつりと零された…静かな声。
夜を思わせるような…綺麗で、優しい音。

なのに、それが今、酷く掠れた声音になって…おれの名を呼ぶ。


「…(…怖い、)」

…拒まれたく、ない。

そんな願いから、息を吸うこともできずに「…は、い」と、何故か敬語になって答えた音は、あまりにも小さくて、

…ああ、だめだ。こんなんじゃ、きっと彼には聞こえない。


「……」


もう一度返事をしようと、息を吸った
直後、


「…っ、え」


腕を引っ張られた。
息も詰まりそうな程、強く抱き寄せられて、


「…まーくん、」

「っ、」


切羽詰ったような声音が、耳元で縋るように叫んだ。
後頭部に回された手に驚き、「あ、えと」と戸惑いながら、強く、あまりにも強く抱きしめてくる彼に目を見開いて、


「く、苦し…っ、」…と、本気で抱き潰されてしまうんじゃないかと錯覚する程ぎゅうとされて、彼の服を掴んで必死に緩めてほしいと訴える。…少しだけ、拘束が緩くなった。


そして、顔を上げる、と


「なら、今すぐ」


泣きそうな顔で、余裕なんて一切ない表情をした彼が、

…おれに、唇を近づけて、


「………俺に、まーくんの全部をちょうだい…」


囁かれる…低く掠れた声音。

唇に触れた吐息に、
「…ぁ、」ゾクリと全身に得たいの知れないものが走ったような感覚に襲われる。


そして、


「…――っ、」


呼吸が出来ない程、噛みつくように唇を塞がれた。
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