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焦る意志とは無関係に、彼に触れられるとどうしようもないくらいに悦んで跳ねる性器はすぐにビクンッと震えて精液を吐き出してしまう。
全身に電撃が走ったような快感に、なすすべもなくぼろぼろと泣いた。

脚を閉じようとすれば、弱いところを指の腹で重点的に擦られる。



「そんなに嫌なら、俺を殴ってでも抵抗しないと止められないよ」

「…っ、」


できるわけない。
くーくんに、そんなことできない。

…ふるふると首を振ると、達したばかりの性器をもう一度擦られて、…二度目の、射精。

自分のお腹にも、太ももにも出した精液がかかってぬるぬるする。
ヒク、ヒク、と余韻で震える腰に、全く力が入らなくなってしまった。


「…ぁ、う…、」


快感と同時に、完全に罪悪感と自責の念から零れ出てきた涙。
ぎゅ、と瞼を瞑って息を整えている…と、


「…っ、ひ、」


……何かが、後孔に入ってくる。

驚いて下を見ると、彼の人差し指がくちゅっと音をたてて後孔に挿入されていた。
濡れた指、…の感触。



「…っ、や、ぁ…っ、」

「腰あげて」

「っ、…ぅ、ぁ」


彼の声に言われると、考える間もなく従ってしまう。

指示通りに必死に力の入らないお腹に集中して、ペタンとゆかについていたお尻を浮かせた。

…いつの間にかトロトロな液体を塗り付けていたらしく、彼の隣にその入れ物があるのが見えた。

やわらかい内壁の襞々を擦りあげて指がぬるぬると入ってくる。


(くーくんの…ゆ、び…が、っ)


記憶にはある。
だから、なんとなく挿れられたらこんな感じだろうなってわかっていた。

……わかってはいたけれど、
それでも間近でみると、そこに挿れられると、指でさえ怖い感覚しかなくて、

視界に映る、自分の穴が指を飲み込んでいく光景。
お尻のなかに広がる少しの圧迫感。


そして、自分にそうしてくる…くーくんの欲情して、だけど…冷たい表情。



「ぁ…っ、ん゛ぅ…っ」



下肢が、びくびくする。

孔がキュッと締まって、彼の指を締め付けた。
勝手に異物を吐き出そうと内壁がぐにぐに蠢くから余計に感じてしまう。

根元まで埋められたそれをぬちゅぬちゅと抜き差しされて、「…っ、は…っ、ぁ…っ、」腰が勝手に引けた。

けれど後ろは壁だから、ほとんどその行動は意味を成さない。


「…っ、ぃ、ん…っ、」


クチュ、メチュ、と粘ついた音が聞こえてくる。
擦られる度に孔の中がむずむずとして、疼いた。
「…ん、…っ、ひ…っ、ぁ…」二本に増やされた指が、内側から犯してくる。


浮かしたお尻が、自然と揺れた。
自分から感じるところに擦りつけようとしてしまう。



「ほら、やっぱりまーくんはきもちいーこと大好きだもんな」

「っ、ち、ちが、ぁ…う…、」



ハッとして、かろうじで残っていた理性が引き戻されてくる。
…危うく流されそうになってしまった。

本当に違うのに、と指を抜こうとして腰を右にずらせば、「…っ゛、ぁう…っ、」余計にナカで擦れて変な声が出た。


言葉では否定しても、完全に前が開いていて最早羽織っているだけにしかなってない浴衣は意味がないから

…ただ無防備に曝された性器だけが、なんの言い訳もできないくらいぎちぎちに硬くなって上を向いている。


身体全体が震えるほど激しく指で肚の中をグチャグチャ掻き回され、性器の根元の裏あたりをナカから何度も指の肚で突き上げられ擦られ続けると、骨盤全体がさっきよりも異常なぐらいにジンジンする。


「う、ぁ゛ぁ゛あ、ぁっ、」


泣いて暴れるほど凄い速さでお腹の中の気持ち良いとこを指で摩擦され、後孔が激しく痙攣をして、上を向いた性器からドロリと精液が零れた。

宙で支えられなくなって、お尻が床についてしまう。

でも、

本当に違う。
違うんだって。

おれがいいたいのは、くーくんだからやだとか、そういう行為をやめたいとか、そういうことじゃなくて


「…も、…、やだぁ…っ、」



嫌なのに、行為が進んでしまう。
こんな状態で、…最後までしちゃったら、



……おれは

きっと、一生後悔するのに。


「くーくん、の、ばかぁ…!!おれだって、おれだって、ちゃんと、したい、のに…っ、!!」


明らかに快感じゃない涙を流して泣きじゃくっていると、お尻に入っている指が…動きをとめる。



「…さっきから何。そんなに泣くほど嫌がらなくてもいいだろ」


瞳を翳らせながら、傷ついたような表情でそう言葉を吐く彼に、「…ぅ、ちが、ちがう…っ、」ああ誤解させてしまった。おれのせいで、そんな顔をさせてしまった。
そんな思いは言葉にならなくて、…ただ首を振る。

止めないと、と思っても溢れてきてしまう涙を隠したくて、両腕で顔を隠すようにして覆った。



「…っ、ぅ、うえ…っ、ごめ、ごめんな…っ、さ」

「……」

「…おれ、からさぞったのに、とちゅ、でやめて、おこらせて、ごめんなざ…っ、」


滝みたいにぼろっぼろに零れてくる涙のせいで濁音だらけの謝罪。
…さっきまでとは全然違う、甘くなくなってしまった雰囲気に、自分のせいだと思うと余計に涙が溢れ出てとまらなかった。


「…違うなら、なんで?」


…怪訝そうに、でも…少しだけやわらかくなった口調。

孔に入っていた指が、するすると抜かれていく。…ほっと息を吐いた。
ひく、としゃくりあげながら、ぽつりと、言葉を零す。


「……ろ、…」

「…ろ?」


あまりにも涙ばかりが混じる唇が発した言葉を、うまく聞き取ってもらえなかった。
喉を何度も上下させながら、嗚咽交じりにもう一度言う。


「おふろ、はいってから、がいい…っ、から」

「……え、?」


…驚いたような、呆気にとられたような声。
自分から誘っておいて、って感じだけど、…さっきくーくんに触られて、思い出してしまった。

…おれが、…一週間近く、お風呂に入ってないってこと。


「…っ、だって、全身汗ベトベトで、汚いから、」

「……」

「くーくんはきれいなのに、おれ、いま、すごく、きだなくで、」


多分匂いも結構するだろうし、…してる最中に、くさいとか、べとべとしてるって思われたくなかった。
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