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…後から何度もあの時お風呂入ってなかった、とか気にするんだろうなって思うのが嫌で、


「はじめて、だし、ちゃんと、ちゃん、ときれいな、身体で、したい…っ、し、」


本当のはじめてが今じゃないってこともわかってる。けど、
…でも、おれにとっては…はじめてみたいなものだから、ちゃんと、綺麗な時に、したい。


それに、


「くーくんと、はだかで、ぎゅーって、できないから…っ、」


「って、おもって、…っ」とそこまで言って限界だった。本当は今すぐにでもぎゅってしたい
抱き付きたい。抱きしめてほしい。浴衣の裾でぐじぐじ拭うけど全然拭ききれなくて、うえ…っ、うええんと幼稚園児みたいに泣いてしまう。


…こわい。こわい。こわい。こわかった。


まだ胸が嫌な感じでどきどきする。

おれのせいだけど、おこったくーくんは、やっぱりこわくて、



「ごめ、なさい…っ、だから、捨てないで、ぐだざい…っ、」



…わがまま、いってごめんなさい、と謝りながらせめてこれ以上泣いてるのを見せないようにしようと土下座するように床についた両腕に顔を埋めた。


くーくんに捨てられないためなら何でもする。そう思っていたのに、結局今おれは自分の都合を優先して、迷惑ばかりかけている。

そう思うと余計に我慢できなくなって、堰を切ったように大声で泣き続けてしまう。だから彼の反応をみれないせいで余計にどんな表情をしているかわからなくて怖かった。


…と、何かが髪にふわりと触れる。
ため息のような吐息が大きく零された。



「…何言ってんの。…俺が、まーくんを捨てるわけないだろ」

「…っ、ほ、んと…?」



よしよしと頭を優しく撫でられて、胸があったかくなる。
温かい声に顔を上げると、困ったような表情を浮かべている彼がこっちを見下ろしていた。
頬に伸ばされた手がそこを優しく包み込んで、涙を拭うように触れてくる。



「…ん…」

「だから…、その、できれば泣かないでほしいんだけど…」

「…ひ、く、ぅ」

「ごめん。…まーくんに泣かれると、どうしていいかわからないんだ」


ぐしゃっと顔を歪ませて泣くおれを見て、余計に彼は持て余しているような表情で目尻を下げた。

ほうっといつも通りの顔に安堵する。
「くー、く…っ、」と心から縋るように彼の名を呼んで両腕を伸ばすと、戸惑いつつも後頭部に回された腕によって抱き寄せられ、ぎゅってしてくれる。



「…っ、くーくん、…ッ、」

「…うん」


彼の体温。感触。優しい手。
耳元で囁く声は、狼狽えているような雰囲気をいまだに残していた。
受け入れてくれたことが嬉しくて、くーくんくーくんと何度も呼びながら彼の肩に顔を埋めて涙をぐりぐりと塗りつけていると「…え…っと、」と茫然とした声で言って、「…ひとつ、聞いていい?」と問いかけてくる。


泣きすぎて最早枯れてきた喉を使って、うん、と頷く。


「……本当に…俺としたくないから、嫌がってたわけじゃ、ない……?」

「…ん、ん」


こくこくと勢いよく首を縦に振った。



「おふろはいってから…ちゃんと、したい…っ、」



彼を見上げて必死にそう訴える


……と、


朱色に頬を染め、…ぐ、と唇を噛んだ彼は、その表情を変化させて、俯いた。

黒い髪が顔に影をつくる。


「………あー、」


そんな声とともに、おれの身体を抱きしめていた腕が離れる。
そして…「…?くーく…?」疑問の声をあげながら、どうしたのか、と少しだけ首を傾げる。


……と、


彼は、ふらりと立ち上がって、



…――――棚にガン、と額を打ち付けた。




「…っ、??!!!!!」



しかも、ぶつけた場所はよりにもよって  角  で、



「……」

「え、え…?」



……頭が、どうかしてしまったのかと思った。

目を見開き、…茫然としながら、頭をぶつけたままで立ち竦んでいる彼を見上げる。


「ぁ…、何、やってるの…!!!!」


状況を把握して飲みこみ、反応できたときには叫ぶような声が喉の奥からもれていた。
急いでなんとか立ち上がって駆け寄る。


「大丈夫?いたい?」

「……」

「…っ、ど、どうしよう。血が、血が」


うちつけたとこから、じわじわと血が滲んできている。
…それに、なんか、変な色になって腫れて、きて…



「だ、だれか呼びに…っ、」

「…大丈夫、だから」


慌てて身を翻して扉の方に向かおうとすると、腕を掴まれてぐい、と後ろに引かれる感覚。


「わ、」


ぽすん、と彼の腕の中におさまった。
…「――っ、」後ろからぎゅうっと抱きしめられる。
額から出ている血を気にもせず、「……め、さめた」とぽつりと言葉を零した彼は、はーっと深い息を吐いた。


抱き締められたまま、
…そんなことまでするなんて、すっごい頭にきているに違いないと真っ青になる。
どうにかして顔だけをそっちに向けて、見上げた。


「おこ、おこってる…?ごめん、ごめんね、くーくん」

「…ごめん。俺が悪い」

「く、くーくんはわるく、ないってば!」


…何でくーくんが謝るんだ。
わるいのは、途中で中断させたおれのほうで、

瞼を閉じてなんだか複雑そうな顔をした彼にぎゅうっと抱きしめられて、「ごめん」ともう一度本当に心からそう思っているのが伝わってくるような、…申し訳なさそうな声で謝られた。


「…二度と、そんな顔させないって思ってたはずだったのに」

「……」

「……大切にするから。今度こそ」

「…っ、くー…くん」


頭の上で彼が、真摯な声が吐息交じりに呟く。
唇が、頭に触れている感触。
ふわりと優しく微笑んだ彼が、よしよしと頭を撫でてくれて、


「…ちゃんと、お風呂に入ってからにしようか」

「…っ、うん!!」


嬉しくなる。ぱああとそんな彼の声に全身が歓喜して顔が勝手に明るくなる。

それから、「…(…あれ、でも、…さっきの感触…っ、て…)」抱きしめられた時に腰の辺りに当たった、…硬い…覚えのある感触を、思い出した。

…ごくり、と喉を鳴らす。


「あ、あのね、」

「ん?」

「…あの、今のは、おれがわるいから…くーくんを、そのままにしておけないし…なめる、だけなら」


返事を待たずに、振り返った。
かがむ。
彼の浴衣をかき分けて、その下着の下に手をつっこんで、性器を取り出した。

……と、


(…っ、すご、い…)

ズク、と下腹部が甘く震える。

ただでさえどでかいくーくんの性器が、見てわかるほどガッチガチになって硬くなっていた。
赤黒く立派なソレが、天を向いている。
自分のとあまりにも違う逞しい形に、…息を呑んだ。

…エロい、なんてものじゃない。



(…おれにたいして、こういう風になってくれたのかな)


もしそうだったら、凄く嬉しい。



「…っ、え、ちょ」

「………」


焦ったような声を出している彼を尻目に、脚を開かせてその間に顔を埋める。


「はむ」

「…っ、」


手で根元をそっと掴んで、上を向いているソレのさきっちょから唇に含んだ。
唇を這わすようにして、奥まで咥えるようにした。
…こんな状態になってる性器を見てみないふりをして、流石にお風呂に行こうなんて言えない。


本当は、他人の性器を咥えるのとか抵抗あるけど、…大好きなくーくんのだから良いと思えた。
記憶の棚の中の、教えてもらったふぇら…?のやりかたを引きずりだしてきて試す。


(…結構、苦しい…)


口の中の圧迫感。
熱り立った性器が舌や口腔内の壁に触れる感覚。

…くーくんのはでかいから、余計にきつい。

それに、さっき足腰がうまくたたなくなったせいで、床に膝をつけている脚もぶるぶると震えているし、上半身だけはかろうじで使えるって状態である。


それでも、せめて動かせる部分だけもと精一杯口に含もうとして、…できるだけ奥にまでいれようと頑張っていると、



「…っ、まーく…っ、いいって、やらなくても、」

「…ふぬふぬーー!!…ん…ちゅ、」



頭を掴まれて、引きはがされそうになる。
けど、意地でも離すものかと咥えたまま首を振って、舌先を使って刺激する。上下に顔を揺すった。
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