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口の中が彼の出したものでいっぱいになって、息ができなくて、視界が真っ白になる。
意識も遠くなる。

がぼがぼと、小学生の頃学校のプールで溺れたのを思い出した。
正に、そんな感じの苦しさだった。

…大好きなくーくんの精液で窒息死。

脳が酸素不足で痺れてぼやーっとしてきて、最早そういう死に方も幸せっぽいからありなんじゃないかと思ったりする。


…と、



「…っ、まーくん…っ、!!!」


突然鼓膜に届いた、彼の焦ったような声。

それと同時に、後ろから肩の辺りを抱くようにして回された腕によって上半身を起こされた。
喉の奥にまでさきっちょが入っていたその性器がぬちゅっと口から抜けていく。
口に栓をしていたモノが抜かれると、沢山口腔内にたまっていた精液がぼたぼたとお腹のあたりに幾度も零れていった。
抱き起こされた反動で後ろにいる彼の身体に倒れ掛かる格好になる。

引っこ抜かれた直後、一気に酸素が入ってきた。


「…ッ、げ、ほ…っ、げ、」


ひゅっひゅっと勝手になる変な音を出しながら息を吸うと、まだ口の奥に残っていた精液を飲みこんで余計に咳き込んでしまった。

どうにかして呼吸を楽にしたくて、床に這いつくばるようにして口のなかにまだあったものも吐き出した。
全身が痺れていて、指先の感覚があんまりない気がする。
何度呼吸をしようとしてもべとべととした精液が喉に絡みつくせいでうまくできない。

…どろどろの感触がずっと残ってる。



「ごめん、まーくん、ごめん…っ、」

「…っ、げ、ぅ…っ、ぇ…っ、」


苦しくて涙を流しながら咳き込むおれの背中を擦ってくれる彼に何かを応える余裕すらなかった。
鼻の奥までツンとする。
凄いおかしな飲みこみ方をしてしまったらしい。

げほげほと何度かそうしていると、やっと少しずつマシになってくる。
ごくりと、口の中に残ったものをもう一度飲み込んだ。


「…は――っ、…」

大きく息を吐く。
やっと周りの状況を見渡せるくらいの余裕がうまれてきた。

…今見ると、畳がおれの出した精液とか口から零した精液でびちゃびちゃになっていることに気づく。


(…う、あ……くーくんの部屋をかなり汚してしまった…)


これ、掃除にどのぐらいかかるんだろうと目の前の光景に硬直していると、

「まーくん、大丈夫?苦しい?吐く?こういう時は、どうすればいいんだっけ。洗面所?でも変に肺とかに入ってたら危ないし、けど…」と背中を擦ってくれている感触に、珍しいくらいに焦りの滲んでいる声。

…振り返る。

と、おれ以上に泣きそうな顔をしているくーくんがいた。


「まさか、そうなると思わなくて、…っ、…ああ、どうしよう、」

「………」


…医者、呼んだ方がいいかな、なんて言って、
本当に慌てているらしく、困っているのがわかりやすいくらいに表情にあらわれている。
その様子にキョトンとして目を瞬かせる。


「…どうし、て…?…」

「え?」

「なんで、そんなに慌ててる…の?」


まだ喉がイガイガしてる感じで、引き攣れる。しゃがれた声になった。何度か咳き込んで、息を整えながら、改めて唇を開いた。



「わざと、だと思ってた…」

「…わざと?」


返ってきた問いかけに「うん」とこくんと頷く。
…くーくんなら、あんな状況で上から咥えてるときにおれがイッたらそうなる可能性があることくらい予想できそうなのに。


「…くーくんのを咥えてるときにいっぱい触ってきたのって、ああなることがわかってて、わざとしてたんじゃないの?」

「…っ、」


必死なおれに悪戯?してきた時のくーくん、凄い楽しそうに見えたし。
だから狙ってやってたのかと思ったのに。

小首を傾げて見上げると、ぐ、と動揺したように喉を上下させる。
じーっと見上げていると、観念したように息を吐いて気まずそうに目を逸らした。


「その、…あれは、」

「あれは?」

「…ただ、…まーくんに良いようにされるのが、悔しかったから、というか…」

「……」


ものすっごく言いづらそうな表情でぽつりぽつりと零される言葉に、…相変わらずな子どもっぽい一面が見えて思わず顔がほころんだ。それに気づいた彼が、「何」とむすっとした顔で少しだけ拗ねたような顔をする。「なんでもなーい」と軽い口調で返せば余計に眉が寄せられるのが見えた。


「だから、あんなことになると思わなくて、…ごめん」

「…いいよ。そんなに謝らなくても。きもちよくなってくれたのは嬉しかった、…から」


ふるふると首を振る。
くーくんのでっかい性器と大量の精液で窒息しそうになった時、…幸せかもしれない、とか考えちゃったし、…今思ってみても、くーくんの一部が原因で死ぬという状況はやっぱり嬉しいことかもしれないと思ってしまっている。貴重な経験ができたともいえる。

そもそも、くーくんにだったら何されても嬉しいし。

だから死にそうになったっていっても、…その原因が彼なら、感謝こそしても、おれに怒る権利なんかないわけで、とそれらの気持ちを若干はしょりながら伝えてみた。
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