ぐちゃ(真冬ver)

………

……………………?


ぺちゃ、


「ほら、アンアン感じるだけじゃ―――もっと腰を使―せんせ―― くーくんだと思――頑張――」


――ち―く―


「君のお父さん――許可はもら――。診察――楽しも―」


(おとう、さん……?)


その単語に
何故か、違和感を覚えた。


「くーくん…どこ?」


頼りなげに呟いた自分のこえ。

それから、てが、あしが、…ぜんぶが、まっ…く…?


そして


「……っ、くーくん…、見つけ、」


声が聞こえてきた場所に入り、ほっと安堵したのもつかの間。

その続きは、
…視界に入ってきた光景のせいで、声にならない。

………なにか今、よくないものを見た気がした。


『……どうされました…?あおいさ…』


その別の声が聞こえた瞬間、おれはそこにいない。

消す。
頭から消す。

なにも見てない。
なにも見なかった。

おれはなにもみなかった。


「…っ、まーくん…!」


くーくんの声がする。
なのにその姿は見えなくて、

それにどうしてか焦りを含んでいるみたいだった。

あれはくーくんじゃない。
彼が、他の女の人を抱くはずがない。


畳の部屋。

ほとんど着ていない衣服。
…裸で、長い髪を垂らしたまま、ねだるように腕を回す女の人と、

その、相手

はだけている衣類の隙間から晒されている、整った身体。
サラサラの黒髪と美しい首筋。

それから、…軽く瞼を伏せている…冷たく思えるほど綺麗な 横顔 は、

さっきまで、傍で


「……っ、」


…いや、違うと否定する。

そんなはずない。

見てない。
見なかった。
おれは何も見なかった。

同時に、ぐちゃ、と心臓を引き裂かれたような痛みが、今にも叫び出したいほどの苦しみが全身を覆い尽くして喚きたくなる。


「…………?」


――チッ、頭いかれてんのか――


それに、別の声も聞こえてきた。
体内をぐちゃぐちゃに荒らすものとは別に、どこか、遠くから―


「おいふざけんなよ家畜!!」

「……っ!!!?」

「御主人様の声に答えねえなんて生意気な真似してくれたんだ…なにされても文句、言えねえよなぁ?」


突然耳にはっきりと届いた声に、びく、と身が震える。
一気に身体全体に緊張が走った。
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