恋人(妃ver)

……

……………………


ある『処理』の後、


「あの、蒼様…」

「何?」

「…っ、」


私の呼びかけに、答えてくれる。
それに、最初の条件を満たしているから、ご褒美に私の要望通り…優しく微笑んでくれた。

トクン、心臓の鼓動が速い。
一生懸命、蒼様に可愛く見られたいがために何時間も頑張ったお化粧で塗った頬も紅潮する。


だって、

だって、


「…(あの蒼様が、私だけに、笑顔を向けてくれるなんて…)」


美しく、誰が見ても見惚れるほどに整っている顔が、綺麗で睫毛の長い瞳が、その優美な身体が、…今、私のためだけに…ある。

柊真冬に、じゃない。


「…っ、ふふ、」


緩む頬をおさえられない。

(…アレを追いやって、二人きりで)


その結果今、私が”あの人殺しの代わりになれている”。
この状況に、どうして喜ばずにいられようか。


「…お願いが、あるのです」

「お願い?」


座ったまま、恐る恐る彼の胸に身体を預け、歓喜と緊張の両方でちょっとどきどきする。

(…怒られたら、拒絶されたら)

…けれど、何も言われない。抵抗されないことに安堵する。
そしてこうして間近に体温を感じられることに、…心から幸せを感じて泣きたくなった。


「…蒼様にとっては、無理なことではないと、思うのですが…」


傍によるとふわりと香る…甘くて優しい香りが鼻孔をくすぐって、更に魅了される。
隣を見上げれば、凛として静かな瞳と目が合った。


「………ぁ、」

「…どうかした?」


けれど、前とは違う…その冷たくない…むしろ優しさを滲ませた声音に
とてつもなく嬉しくて、…恥ずかしくなって、すぐに逸らしてしまう。


「好きです…蒼様が、好きなんです…」


呟いた唇が、震えている。
…今でも、信じられない。

この綺麗な顔も、髪も、今吐いている息も、言葉も、身体も、すべて…私だけのものなのだ。

そっとそれらに指で触れ、確かめながら、…今更になって本当に口に出すべきかどうか迷う。

”キスだけはだめ”だと最初に言われた。

『まーくんとの約束』だから、それだけはできないって。

つまり、それ以外なら、…何でもしてくれるはずだ。


だから、


「ねぇ蒼様、…私に、」


”…愛してるって、言ってくださいますか。”


…緊張で震えてしまう…そんな今にも消えそうな声音でそう囁いて、縋りつくように彼の胸元に頬を擦り寄せた。

とくん、とくんと聞こえる彼の心拍。
抱きしめて下さい、と小さく言えば、肩に触れた手で優しく身体を寄せてくれる。

恋人同士の証といってもいいこの行為に、満足し、笑みを零した。

お願い、といったけど、その希望はきっと叶えられるだろうことはわかっていた。

――――――――


(だって、)

(私のお願いを、蒼様は絶対に断れないもの)
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