3

……最初は勘違いさせてやってもいいかと思ったが、これはこれで相当腹立つな。
こんだけ近いのに、わかんねーのかよ。


「くーくん…」


ぎゅううう。


「……っ、」


(…その名前で呼ぶな。)


くそ。
くそ。

くそったれ。


「…マジでふざけんなよ」

「……?」


俺の小さな呟きに、こてんと無防備に小首を傾げる。

身体がまともに機能していれば、
触る手が、
愛撫する唇が
ブツが機能していれば、

…今コイツを押し倒して、口を塞いで、滅茶苦茶に犯してやれたのに。


「お前さ、俺のこと」


まだわかんねーの?

………そう聞こうとした時、


「…ね、ちゅー…して」

「…っ、あ?」


顔が近づく。
…潤んだ家畜の瞳が、俺を見上げて


「くーくんでうわがきー……」


――甘ったれたガキみたいな声を漏らし、唇がゆっくり触れようとする。


その瞬間、


「へぁ…?」


目の前の顔が、空気の抜けたような声と同時にとんでもなくアホ面になった。
二重の瞼が数回、瞬きする。

直後、くしゃりと顔が歪んで泣き出す一歩手前になった。


「…ちがう…」

「……、」
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