10(真冬ver)
***
ドガッ
「…っ、」
ちょっと上から思わずびくっとするほど身体に響く音と、
…続いて小さく痛みを押し殺すような声。
後ろからお腹をぎゅっとしてきた腕に、背中から包んでくれる身体に、頬をかすめたさらさらな髪に、甘く優しい香りに、
「…くー、くん…っ…?」
びびっと電流みたいなものが全身を走り抜けたような気がした。
痛みに耐えるために瞑っていた瞼を開く。
(…今、おれがなぐられそうで、だったのに何も当たらなくて、痛くなくて、)
でも、さっきまではなしてた人は前にいるから、だから
「………ぁ、」
音がした方を向くと、おれを抱き締めているその人…くーくんに見下されていて、かなり至近距離で目がぱっちり合う。
その直後、微かに触れる吐息に目を見開いた
瞬間
「…――っ、?!」
まだ身体がそっちに向ききれてないのに、突然噛みつくように唇を奪われた。
今明らかに押し付けられているやわらかい唇の感触に、
「…〜っ、!」
声にならない悲鳴を上げる。
顎が上がっていて呼吸もままならない。
そんな角度でうまく反応できるはずもなく、
「…っ、ぷ、は…っ」
一度触れた唇がゆっくりと離れていって、間近で見つめ合う形になった。
瞼を軽く伏せ、綺麗な長い睫毛が怪しく瞳に影を落としている。
見たこっちの胸が痛くなるくらい辛そうなのに…それなのに、口元には優しい微笑を浮かべていて、その不一致感が何故かすごく危ない色気を醸し出しているように見えた。
どうしてここに、とか、やっと会えたとかそんな歓喜より先に、
惹きつけられるようにその表情に意識が吸い寄せられ、見惚れ、ごくりと唾を飲みこむ。
…と、
「…くーく、?…ん゛ぅっ!」
…そんな表情にゾクリと身を震わしていると、また息をする間もなく唇を塞がれた。
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