14
くーくんはいつも、おれのいやがることは絶対にしなくて、優しくて、抱きしめてくれる。
だからくーくんとの思い出はいつもあったかくて、
…だから
だから、こんなことを言われるなんて想像もしたくなくて、しなくて、
なのに、
「…は?お前何?揶揄ってんの?」
「冗談でこんなこと言えるわけないだろ」
「…っ、!!」
おれのいいたいことを代わりに言ってくれたその人の言葉に返ってきたのは、あまりにも無情な言葉だった。嫌な意味で、眩暈がする。肩が小さく跳ねる。
「で、どうすんの?」
「……勝手にしろ」
おれの意思なんて関係ない。
…少し離れた場所で繰り広げられる会話。
勝手に進んでいく話に、さっき舌を出したせいで零れた唾液より、更に多い涙が目から溢れて頬を伝った。
くーくんはそんなおれから視線を逸らして
「……ね、くーくん…」
「…何?」
「うそ、だよね…?くーくんは、そんなこと…させない…よね…?」
ぎゅうってなる胸の痛みに笑顔が強張る。
それでも、一生懸命にへらりと笑いながら、異常に震える唇でそう問いかける。
…けど、
「……」
おれの望むような答えを返してくれることはなかった。
ちょっと離れた場所で、鎖の外れる音がした。
その男の人の手足の枷を外したらしいくーくんがこっちを向く。
「ほら、まーくんおいで」
「……っ、っ、や、おれ…っ、」
全力で首を振る。
さっきのくーくんとのキスで腰が抜け、しかもこの状況での恐怖によって力の入らない身体に鞭を打って、座ったまま少しだけ後ずさった。
やだ。
やだ。
嫌だ。
「この人歩けないんだから、まーくんからしてあげないとできないよ」
「…っ、」
泣きながら、それでもいつもみたいにぎゅってしてくれるのを信じて、伸ばした手を裏切るように
上から降ってきた言葉にびくっとする。
…声は優しいのに、どこか冷たくて。
そんなくーくんの雰囲気が余計に怖さを加速させた。
「おいてめぇ…歩けなくなったのは誰のせいだと思ってんだクソ野郎」
恨みのこもった声で吐き捨てられた台詞に、返答する声はない。
けど、
「…まーくん」
「…っ、や、やだ…っ、」
静かに名前を呼ばれ、小さく首を振る。
だって、こんなのおかしい。
なんでその人とキスしないといけないのか、全然わからない。
「…嫌?本当に?」
「…っ、ほん、とに、ってなんで、…っ、」
「……さぁ。キスしてみたらわかるんじゃない?」
冷たく突き放すような言葉に、胸がズキリと痛む。
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