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(…そんな顔をするくらいなら、全部教えてくれればいいのに)
辛いこと。
悲しいこと。
苦しいこと。
……今、蒼が考えていること。
全部知りたい。教えてほしい。
…そう思っても、結局彼は何も答えてくれないし、俺が助けになるとも思ってないんだ。
「協力、してくれるんだろ?」
俺の頬に触れようとする手を拒むように、目をぎゅっとつぶって、俯いて首を横に振る。
うんなんて素直に頷くわけないのは、きっと蒼もわかってるはずだ。
違う。こんなはずじゃない。こんなはずじゃなかった。
俺はただ、
蒼と…前みたいに、普通に一緒に――、
「お、俺は…っ、」
「俺の大事なお姫様が、余計なことに首を突っ込まないように」
「……っ、」
”余計なこと”と彼は言った。
とても温かい微笑みを浮かべて、俺を慈しむような表情で、残酷な言葉を告げる。
「まーくんは、何時間耐えられるんだろうな」
『……大丈夫。オモチャはたくさん用意してあるよ』
そう優しく囁いて、俺を抱きしめるから。
だから気づくことができなかったんだ。
――蒼の綺麗に悲しく歪んだ笑顔に。
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首輪と、手枷と、足枷。
蒼は、俺に何も教えてくれない。
(…彼が、一体何から俺を遠ざけようとしているのか)
(それすら、わからない)
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